取材ノート

「未来への投資」


 「共和国も『苦難の行軍』をしたかもしれませんが、私も『苦難の行軍』をしました」

 6月中旬、都内で開かれた在日本朝鮮人科学技術協会主催の学術報告会での講演で、ソフト開発ベンチャー企業、ユニコテックの兪★(王偏に完)寧会長はこう切り出した。

 兪会長率いる南のパソコン用モニター製造専門企業IMRI社が平壌に工場を設立したのは、1998年。時あたかもIMF体制下で、南では多くの企業が倒産していた。そんな中、30代半ばの若きベンチャー企業家が、単身平壌に乗り込んだのだ。

 50年以上も異なる体制下で生きてきたのだから、ビジネスに対する感覚も違ったはずだ。そもそも、社会主義体制下の北の人々にとって、ビジネスや金儲けは無縁のものに近かったろう。そういった感覚の溝を埋め、なおかつ北の労働者に技術を伝授するため、年に数回も訪北したという。電力不足、インフラ整備の遅れを補うため、自ら発電機まで設置した。そんな根気ある努力が実を結び、兪会長は信頼を勝ち得た。

 今、平壌の工場では120人の労働者が働いているという。そこで生産されるパソコンモニターは現在、南ではもちろん、日本の市場にも進出している。中国や台湾製品より数段上質だという。今やIMRIは、「北で最も成功したベンチャー企業」ともっぱらの評判だ。

 兪会長は言う。「北とのビジネスには犠牲と努力が伴う。しかし、それらはすべて未来への投資だと思っている」。「未来への投資」とは、統一した祖国で朝鮮民族がともに豊かに生きていくことを意味するのだろう。果たして、彼は講演で、「みなさん、統一のために何かできることを考えてください」と何度も繰り返していた。

 兪会長の描く未来。そのために、自分ができることは何か。講演を取材しながら、改めて考えた。(聖)

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