京都コリアン生活センター「エルファ」、「ウリ式デイハウス」の追求

登録ヘルパー42人、福祉の拠点へ体制作り


 同胞高齢者の歩んできた歴史を考慮し、現実に即した介護を目指してきた京都コリアン生活センター「エルファ」(鄭禧淳所長、京都市南区)。3月1日に事務所の隣にオープンしたデイハウスの利用登録者の数は、7月に入って当初の4倍の約50人に増えた。同胞のための介護サービスを提供する京都唯一の拠点だ。3月には特定非営利活動(NPO)法人の認可も受け、福祉問題を担う人材育成とネットワーク作りにも本格的に着手した。

利用者4倍に

 玄関には朝鮮の置き物、壁には朝鮮の風景画。ウリマル(朝鮮語)が飛び交い、昼食には朝鮮料理が並ぶ。チャンゴのリズムや朝鮮の民謡に合わせて踊る1世…。エルファで行われているデイサービスの風景だ。

 「同胞高齢者たちに、住み慣れた地域で人間らしい暮らしをさせてあげたい」――。この願いが結実したデイハウスはオープンから5ヵ月たったが、噂が噂を呼び、今や利用登録者数は50人を超えた。

 エルファが進める介護サービスの柱は、デイサービス(通所介護事業)とホームヘルパー派遣事業の2つ。エルファに登録している42人の同胞ヘルパーたちがこれを支える。

 昨年4月に始まった介護保険制度だが、制度が始まる前から同胞高齢者が制度から置き去りにならないかと心配する声はあった。1世は植民地時代の経験から日本の行政サービスに対する不信があり、在日同胞の特性に合った介護サービスという点においても不安要素が多かったからだ。

 高齢化した1世は日本語を忘れがちで、母語として身につけた朝鮮語しか話せない人も多い。食生活をはじめとする生活習慣も日本人とは異なる。無年金状態に置かれた同胞の保険料をどう捻出するか、という問題もあった。

 つまり、介護サービスを充実させるためには、同胞高齢者の歴史と現状を踏まえた対応が必要だった。朝鮮語を話せ、民族の風習に明るく朝鮮の料理を作れる、そんな同胞高齢者の現状に精通した人材がいてこそ、サービスの充実をはかることができるのだ。

月1回の勉強会

 「同胞高齢者のニーズに応えるには人材を育てるしかない」(鄭禧淳所長)

 エルファでは、設立当初から介護保険制度を見越して、同胞ヘルパーの育成に取り組んできた。98年10月には行政主催の講座で8人を養成。昨年6月には社会福祉法人「くらしのハーモニー」と共同で同胞ヘルパー養成講座を主催し、約30人が受講した。

 そしてこの9月からはヘルパー2級の講座を独自に開講する。7月26日に京都府知事から「訪問介護員養成研修事業者」の認定を受けたのだ。

 同胞高齢者の特性に合わせた「ウリ(私たち)式デイサービス」のあり方についても研究を重ねてきた。昨年9月から月1回のペースで行われてきた勉強会では、同胞ヘルパーの役割、同胞高齢者の特性などのテーマを取り上げた。メンバーは府下の同胞女性ら14人。それぞれが経験した介護の体験も話し合いながら、討論を重ねた。

 そこで導き出した、ウリ式デイサービスに必要な5要素は「ウリ友達・食べ物・遊び・環境・歌」。これに基づき、同胞独自のデイハウス作りが進められた。例えば、体操の歌として流れる「エルファタリョン」はスタッフが作詞作曲。同胞高齢者のニーズに合ったサービスが利用者の増加につながっている。

支える輪広がる

  デイハウス開設の3月1日、エルファはNPO法人の認可も受けた。@同胞高齢者の歴史と現実に即した介護A同胞高齢者・障害者への支援B同胞の子供たちの健やかな成長のための支援C地域社会における異文化交流促進の場としてのコリアン文化教室などの運営D京都のコリアン文化財の保存―。この5つの目的達成に向けた体制作りのためで、事業収益を目的達成のための活動に充てられるNPOの特典に目をつけた。

 エルファが取り組む事業は高齢者問題だけではなく、福祉全般にわたる。春からは同胞障害児への音楽療法にも取り組み、府内の障害者を支援する活動にも着手した。7月中旬から始まった「バイリンガル手話講座」は、同胞ろうあ者の相談を受けたことがきっかけで、彼らが講座の講師として協力している。

 最近、エルファの活動趣旨に賛同した日本市民が「支える会」を作りたいと申し出たそうだ。活動に共鳴したと寄付やボランティアを申し出る同胞、各地からの見学者も後を絶たない。京都同胞社会の福祉を支えるネットワークがエルファを中心に広がっている。(張慧純記者)

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