こども昔話

ねずみのおどり

李慶子


 ある村に大きなお大臣の屋敷がありました。

 屋敷にはお大臣の家族、使用人。その数、ざっと500人ほどが住んでいました。

 牛や馬、豚、にわとりを入れると、ほんとうに大家族でした。

 屋敷のまわりに倉がいくつも建っており、倉にはいつでもあふれるばかりの米が積まれていました。

 さて、その倉に、何十年にわたって、ねずみの家族が住みついていました。

 旅の途中で雨宿りをした夫婦ねずみが、10ぴきのあかちゃんを産んだのが、そもそものきっかけです。

 いまでは子、孫、そのまた孫、孫、孫、…といった具合に、数えきれないほどのねずみたちが、豊かな倉の恵みを受けて、なかよく暮らしていました。

 ある日のことでした。

 倉穴から外を見ていたちびねずみが、縄をあんでいた父さんねずみにいいました。

 「お屋敷の柱はどうして揺れるの」

 「おまえのからだが揺れてるんじゃないのかい」

 と母さんねずみはこたえました。

 夜になりました。

 あきもせず外をながめていたちびねずみが、やっぱりねむい声でいいました。

 「お屋敷の柱もねむいのかしら」

 「そんなはずはないよ」

 といいながら、父さんねずみがちびねずみのマネをして倉穴から外を見ると、目にとびこんできたのは柱が傾いたお屋敷でした。このままでは朝をまたずに屋敷はつぶれ、お大臣も使用人も、牛も馬も豚もにわとりも、みんなぺしゃんこ。

 こりゃ、たいへん。

 父さんねずみは倉穴から飛び出すと、広い庭にむかっておどりだしました。

 お出まし、お出まし
 どこのどなたのおでましじゃ
 ねずみさまのお出ましじゃ
 麦をやるから出てこい
 米をやるから出てこい
 飴をやるから出てこい

 父さんねずみのあとに母さんねずみ、ちびねずみが続きました。楽しい声につられて、あちこちの倉からぞろぞろねずみのお出ましです。ねずみたちはお月さまに照らされて、互いの尻尾をもちながら輪になっておどりました。

 お出まし、お出まし
 どこのどなたのお出ましじゃ
 ねずみさまのおでましじゃ
 麦をやるから出てこい
 米をやるから出てこい
 飴をやるから出てこい

 ねずみの輪はどんどんふくらみました。

 外の気配を聞きつけたお大臣たちが庭に出たとき、屋敷は音をたてて崩れていきました。

 命びろいをしたお大臣はあっけにとられて、ねずみのおどりをながめていました。

◇                                    ◇

 これは1940年3月、黄海道殷栗郡で採集された。ねずみから福を授かる話は広く分布しているが、報恩談はめずらしい。ねずみでも一宿一飯の恩に報いると、口承者は語る。

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