地名考−故郷の自然と伝統文化

忠清北道−C沃川と永同

正月は「暑さ売り」の風習

司空俊


沃川と永同間に流れる川


 忠清北道南部に位置する沃川(オクチョン)は蚕業と畜産業の盛んな地方である。現地の人々はもっとも忠清道人らしい気質を備え、互いに助け合う美風を残していることを誇りとしているようである。ここの葛布(葛の繊維で織った布)は珍しい商品。ブドウの産地でもある。

 永同(ヨンドン)は2つの河川が合流する場所であることから、こう名付けられたという。陽山面は、地元の人によると、朝鮮の代表的な民謡「陽山道」の発祥地であるという。陽山八景と寒山八景などが名勝地として知られている。南朝鮮で一番の柿の産地で、街路樹にも柿の木が植えられている。リンゴの「富士」も有名。位置の関係で、全羅道方言、慶尚道方言、忠清道方言が入り混じっている。

 この地方では、古くから「虎灘の伝説」の言い伝えがある。ある孝子が老母の病を治せずに悲嘆にくれていた時、虎が現れ青年を背中に乗せて洪水の川を渡り、山人参がなっている場所に案内した後、どこともなく去っていったという話である。

 忠清道の歌に「なつめ歌」という童謡がある。

 雨よ  雨よ  雨降るな/ナツメの花が  はらはら散れば/報恩(ポウン)のかわいい娘が/嫁にゆけず  涙を流す

 報恩一帯はナツメの木(ナツメの実は漢方薬剤になる)が多い。ナツメの花は夏の暑い時期に咲く。夏の土用は初伏、中伏、末伏に分けて呼ばれ、3つ併せて三伏という。中伏が極暑の期間である。

 今でも同胞は「暑い夏をいかがお過ごしですか」というところを、「三伏の暑さをいかが過ごしていらっしゃいますか」などとあいさつする。さて、この暑い中伏に雨がたくさん降ると、ナツメの花が落ちて実を結ばなくなる。この地方ではナツメの木を育てるのを副業としており、その収入で娘の嫁入り支度をする。そのため、その年のナツメの収穫が思わしくなければ、仕方なく嫁入りを次の年に延ばす。前述の童謡はそのことを歌ったもの。ナツメの木を栽培するのに適した地方ゆえの歌である。

 それにしても、この童謡はある意味では寂しい歌である。泣いても泣ききれないのではないだろうか。娘も、そしてその親も…。

 忠清道の正月の始まりは騒がしい。「暑さ売り」という風習のためである。旧正月15日の朝、人々は太陽の昇る前に起き出す。まず犬と牛に首輪をかけるのだ。犬には東に延びた桃の小枝で作った首輪をかけ、牛には左巻きの縄で編んだ首輪をかける。

 その時に、犬と牛に「今年は暑さを食べるなよ」、「暑さを喰ってはだめだよ」などと声をかける。そうして近くの親せきや友人の家に繰り出す。ここが面白い。家の外で「○○君」、「○○さん」、「○○ちゃん」などと呼ぶのである。呼ばれたものはつい返事をしてしまう。返事がかえってくればしめたもの。「わたしの暑さを買ってくれ」と暑さを売り込む。しかし、返事がかえってくる前に「暑さを買ってくれ」と声をかけてはならない。逆に自分が暑さを買い込むことになるからだ。

 夜が明ける前にこうしてあちこち駆け回る。そうすれば、その年の夏は暑さ知らずに過ごせるというわけだ。
(サゴン・ジュン、朝鮮大学校教員)

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