そこが知りたいQ&A
集団的自衛権容認論とは?
「周辺事態」に米と共同作戦/自衛隊の武力行使 制限外す
94年に総聯大阪・京都で相次いだ警察の強制捜査には、「有事対応」の在日朝鮮人規制・弾圧計画があった(94年4月25日、総聯大阪府本部) |
Q 日本で最近、小泉新政権誕生を前後して集団的自衛権行使の問題がクローズアップされていますが、集団的自衛権とは何ですか。
A 集団的自衛権とは、国際法上、自国と密接な関係にある国への武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利のことです。日本は、国際法上は集団的自衛権を有するものの、第2次世界大戦後に制定された日本国憲法第9条によって、その行使は許されないことになっています。 憲法第9条(戦争の放棄)は、「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」(1項)、「国の交戦権は認めない」(2項)と定めています。また保持する防衛力も、自衛のため必要最小限のものに限り、攻撃を受けても相手の基地を攻撃することなく、もっぱら日本の領土およびその周辺において防衛せねばならないという専守防衛を基本としています。当然のことながら、武力行使の目的で武装した部隊を他国に派遣する海外派兵も憲法上禁じられています。 Q 集団的自衛権の行使に関する議論、その主張はどんなものですか。 A 日本は日米安保体制のもと次第に軍備増強を進め、自衛隊は米国に次ぐ世界第2の軍事予算によってハイテク兵器を装備した軍隊となりました。そして近年、米軍との共同作戦体制をますます強化しています。1996年4月の日米安保共同宣言に続き、97年9月には新ガイドライン(日米防衛協力の指針)が策定され、99年5月には新ガイドライン関連法(周辺事態安全確保法、自衛隊法改定、日米物品役務相互提供協定)がつくられました。 ここでいう「周辺事態」とは、「日本周辺地域における事態で日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」で、その場合の対米軍事協力の内容を定めたのが新ガイドライン関連3法です。これにより、朝鮮半島や台湾海峡などアジア・太平洋地域で、米国が軍事干渉や武力行動を起こし、これを米国が「周辺事態」だと認定すれば自衛隊は自動的に参戦し、日本全域が米軍の出撃、兵たん、後方基地として協力するという仕組みができました。つまりこれは、日本の防衛とは関係のない周辺事態への対応として海外で武力行使を行う共同作戦、戦争協力そのものです。 ただし、この「周辺事態」への対応で、日本の自衛隊は憲法第9条の制約によって、前線での米軍の軍事行動と一体化した作戦は許されません。その行動は、日本国内と公海など「後方地域における後方支援」に限られています。 そのため米国や日本の一部勢力は、自衛隊が後方支援だけではなく、前線で米軍と一緒に共同作戦ができるよう、集団的自衛権の行使を繰り返し要求しています。つまり、日本国憲法第9条の制約を取り外し、米日共同の海外での武力行使を何の制限もなく自由に行えるような道を開こうというのが、集団的自衛権行使の要求、主張なのです。 Q 米国の世界戦略と関わっているのですね。 A ブッシュ政権は、従来の戦域ミサイル防衛(TMD)と米本土ミサイル防衛(NMD)を一本化し、全世界に防衛網を張り巡らせて米国の一極支配をさらに強化しようというミサイル防衛(MD)構想を推進しています。 日本もTMDの共同研究に参加していますが、自衛隊が日本向けのミサイルを迎撃するのはまだしも、米本土や米軍基地向けのミサイルを迎撃するのはまぎれもない集団的自衛権の行使となります。この問題については小泉首相も「研究の余地がある」と含みのある発言をしています。 さらに、米国はシーレーン(海上交通路)防衛拡大をも狙っています。日本側は81年に「シーレーン一千海里の防衛」を米国に約束し、その後、平時は哨戒(敵の襲撃に備えて見張り警戒すること)、有事には米空母護衛のために応戦する態勢に踏み込みました。 米国はこれをさらに拡大し、日本の自衛隊との共同作戦の範囲をマラッカ海峡からペルシャ湾まで拡大することを望んでいます。そのためには集団的自衛権の行使が必要です。 Q では、日本の集団的自衛権行使を求める声は、米国から出てきたのですか。 A そうです。昨年10月、米国のリチャード・アーミテージ元国防次官補(現在の国務副長官)らが中心となってまとめた対日政策提言「米国と日本―成熟したパートナーシップに向けて」(アーミテージ報告書)は、「集団的自衛権の行使を日本が自ら禁止していることが、同盟協力の制約となっている」として、憲法上の制約の除去を求めました。 また、ベーカー駐日大使も5月、朝日新聞との会見で「日本がこの問題をどうするかに強い関心を持って見守る」と期待を表明するなど、ブッシュ政権内で日本の集団的自衛権行使を求める声が相次いでいます。 これを受け、日本でもこの問題に関する論議が一挙に高まりました。その憲法上の制約を外す方途についても、憲法解釈の見直し、憲法改定、国会決議など様々な意見が出ています。 小泉首相が積極的です。4月の就任記者会見では「日本近海で日米共同活動中に米軍が攻撃された場合、日本は何もしないことができるのか」と述べました。だからこそ集団的自衛権行使の容認が必要だとの論理です。自民党国防部会も3月の対政府提言で、「集団的自衛権の行使を可能にするよう政府の憲法解釈の変更」を求めました。 山崎拓・自民党幹事長は5月の国会代表質問で、「周辺事態に限り集団的自衛権を認めるという国会決議」を主張しました。これに対し小泉首相は「国会決議による容認も一つの方法」、中谷元・防衛庁長官は「改憲による見直しが望ましい」との立場を表明しています。 自民党の亀井静香・政調会長(当時)は4月、同党総裁選に際した記者会見で、「在韓米軍が攻撃された場合、日本は同盟国として武力行使に加わるべき」だと発言し、内外から厳しい非難を浴びました。(社会欄に関連記事) |