市区に対する保護者補助金要請

各地の運動経験から


 日本政府が朝鮮学校に対する制度的差別を強いる中、各地では都道府県、市区町村に対し、私立学校に準ずる教育助成を求める要請活動が活発に行われている。その中でも、朝鮮学校の保護者が中心に取り組んでいる市、区に対する保護者補助金の支給要請運動が各地で実を結んでいる。各地の活動、担当者の経験から、保護者補助金獲得に向けた運動のポイントをまとめてみた。

世論作り

議員、行政、市民動かす/公開授業活用、支える会、外国人学校と連携

 保護者補助金を獲得するためには、民族教育に対する理解と支持が議員、行政、それを支える一般市民の中で深まらねばならない。そのためには、まず教育現場を見てもらうことが重要になる。公開授業やバザー、各種文化・スポーツ交流などの場をたくさん設けるのが大切だ。

 すでに地域住民に学校を開放するバザーや公開授業は各地で定着しており、民族教育への理解を深める重要な空間になっている。「大事なことは、それをどのように朝鮮学校に対する差別是正、補助金支給を求めるより大きな世論、運動へつなげていくかだ」(鄭秀容・在日本朝鮮人教育会副会長)。

 北九州、兵庫、愛知、新潟、埼玉などでは日本市民自ら「朝鮮学校を支える会」を作り教育シンポジウムを開いたり署名運動を進めているが、これらは民族教育への理解が差別を是正させる実質的な行動に発展した一例だといえる。

 千葉県下の県および市議会議員は、昨年10月に「朝鮮学校を支援する千葉県自治体女性議員の会」を結成した。日本市民が声をあげることが行政を動かす強力な力になる、と当地の関係者は口をそろえる。

 兵庫県下の自治体では、姫路市が保護者助成金制度を新設するなど、今年度から朝鮮学校に対する教育助成が大幅に増額されたが、その背景には新たな取り組みがあった。兵庫の朝鮮学校は「阪神・淡路大震災」が起きた1995年の7月に県下の外国人学校とともに「外国人学校協議会」を結成し、共同で補助金の増額を求めてきた。

 黄成吉・兵庫県教育会副会長は、「外国人学校と手を取り合うことで、朝鮮学校が置かれた差別的な状況を広く訴えることができた。運動を全国レベルで発展させるためにも、各地で日本政府に差別を是正させる知恵と方法論を考え、行動していく必要がある」と強調する。大阪、東京でも同様の取り組みがある。

行政交渉

窓口定め、繰り返し要請/政府の差別是正を視野に

 いくら要請しても行政当局の態度がなかなか変わらないという悲鳴は各地で聞かれる。また要請に行くたびに担当者が変わるという声も多い。

 一般的に市・区では朝鮮学校を担当する部署が定められていない。大阪市に対して保護者補助金制度の実施を求めている大阪市民族教育対策委員会の蔡成泰事務局長は、「まずは行政当局が民族教育の制度的保障を検討するための窓口を設けるよう求め、そこと日常的に交流を行うべきだ」と指摘する。

 同委員会では、交渉の窓口となっている大阪市の総務部はもちろん、市教委や民族教育に理解のある市議も同席するようにしている。

 行政の態度が変わらなくても、繰り返し根気強く要請することが必要だ。大阪市内の同胞らは、グループを作って交替制で市に要請を行っている。

 このように3、6、9、12月の定例議会の時期に要請するのはもちろん、学校の創立行事など、民族教育と関連した行事が行われる際には欠かさず参加するよう、招待状を持って訪ねていくなど、日常的に、機会あるごとに顔を合わせる必要があるだろう。

 要求内容は、すべての児童・生徒に適用される保護者補助金を支給するよう求めていくことが基本だが、「市区町村が義務教育過程の子供たちを対象に支給する各種の就学援助や、幼稚園児童対象の就園奨励補助、さらに奨学金や通学バス費用などを求めていくのも、突破口を開くための方法だ」(鄭副会長)。

 要請運動は、朝鮮学校のあるすべての市、区で同時に行うのが望ましい。

 「民族教育を積極的に保護、奨励する市や区が増えれば、それ自体が日本政府の差別政策を是正させるための強力な世論につながる」(同)からだ。

法的根拠

国内、国際法が保障/実施は自治体の決心次第

 要請に行くと、行政当局は助成が難しい理由として◇私立学校、各種学校への助成は都道府県の管かつ◇財政が厳しい◇他の私立学校とバランスが取れない―などをあげながら、消極的な態度を取ることが多い。しかし、朝鮮学校への助成には法的根拠がある。

 まず、地方自治体法第232条2項は、地方自治体が「公益上必要がある場合においては」任意の対象に補助を行うことができるとしている。さらに、日本国憲法第26条の「教育を受ける権利」は国民のみならず、日本に滞在する外国人にも保障されると解釈される(日弁連など)。これは「教育の機会均等」をうたった教育基本法にも該当する。国連・子どもの権利条約などの国際条約も民族教育の権利を保障している。

 とくに1998年2月、日本政府に朝鮮学校の差別是正を勧告した日本弁護士連合会の勧告書・調査報告書は、民族教育の制度的保障を求める強力なよりどころとなる。

 他の私立学校とのバランスうんぬんと言うが、朝鮮学校を他の私立学校と同一視すること自体が誤りだ。他の私立学校は政府・都道府県から私学助成を受けているが、朝鮮学校の場合、政府からの補助は一切なく、都道府県からの補助も少額。市や区が補助を実施してこそ、差別状況が解消され、バランスが保てる。

 在日同胞にも日本人と同じ納税義務があるのに、子供に民族教育を受けさせようと朝鮮学校を選択した場合、教育費の還元はない。明らかな不平等だ。

 東京・大田区は、1980年、東京第6初中(当時)保護者らのたび重なる要請の末に民族教育の正当性とその権利を認め、都内で初めて保護者補助金制度を設けた。これは、補助の実施いかんは、地方自治体の決心次第だということを示している。

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