医療−最前線

「病」は気から?


 ある日の、当直でのできごと。午前2時ごろ、救急車で1人の患者が運ばれてきた。患者は35歳の女性で腹痛を訴えていた。苦痛に満ちた顔は、病状の深刻さを暗示するようで、詰めていた医者、看護婦たちの間に緊張感が漂った。

 救急車から運ばれてきた患者に対し当直医は「どうしましたか!」と何回か声をかけたが、何の返事もない。

 腹痛を訴え、救急車で搬送されてくる患者の場合、当直医は通常、血液、レントゲン撮影などの検査をして「急性腹症」「尿管結石」「婦人科的疾患」「腸捻転」「アッペ(盲腸)」などを疑う。

 しかし、この患者は腹痛を訴えながらも問診で何の反応も示さないので、当直医は検査すらできない状況だった。

 静かな夜更けに何分が過ぎただろうか。当直医は患者の痛みが次第にやわらぐのを見て、何か精神的な原因と判断したのだろう。看護婦に一杯の水を用意させた。すると患者はゴクンと飲み干すのだった。

 その後、当直医がもう1度、患者に病状を聞き直した。そうしたら、今度は「大丈夫です」の答えが返ってきた。

 患者は医師と看護婦に囲まれて安堵したのか、その一杯の水で病状が改善したのだ。当直をしていると、このような患者にでくわすことが、たまにある。

 「病は気から」とは昔からのことわざ。それを地でいく、医術を施さないで治る「病気?」があると、この時、実感した。
(李秀一・医療従事者)

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