こども昔話
きつねのてぬぐい
李慶子
それは、月のきれいな夜のことだったって。
「やれ、こまった」 パクじいさんはぶちぶちいいながら、峠の道を歩いていた。 都見物にでかけた長者どんが金のゆびわをなくしたとかで、屋敷によばれた帰りだった。 よほどたいせつなゆびわとみえて、長者どんはすっかりやつれて寝込んでいた。 「見つけてくれれば米百俵の礼をするぞ」 長者どんに、あえぎあえぎこういわれて、人の良いパクじいさんはおもわずうなずいた。 とはいうものの、ゆびわのような小さな物をどこでどうさがせばよいやら。 いいあんばいに切り株があったから「よっこらしょ」と腰をおろして考えるうち、つい、うとうとしてしまった。 気がつくとあたりがなにやらさわがしい。目をこらすとすすきの穂がゆれるさきに、てぬぐいでほおかぶりをしたきつねの子が三びき、かわいらしい背負い子をしょって、木の実をひろい集めていた。 そのうち、ひろった木の実の数をめぐって、三びきはケンカをはじめた。 「おいらが一番だ」 「いいや、おいらが一番だ」 「やっぱり、おいらだ」 三びきはこんもり盛った木の実の山を前に「おいらだ、おいらだ」と言い張って、ゆずらない。 パクじいさんはおかしくなって「どれどれ」と、きつねの子の前にしゃしゃりでた。 ところが、いきなりあらわれたパクじいさんにおどろいたきつねの子は、木の実をおいて、くものこを散らすように、にげていった。 こまりはてたのはパクじいさんだ。きつねの子から木の実をうばったようで、なんともバツがわるい。そこで、腰にぶらさげていた巾着をはずして木の実をかき集め、ついでに、みやげにもらったあずきもちをそえて、切り株の上において帰った。 何日かたって、パクじいさんは峠の道できつねの子にとうせんぼされた。 兄さん格のきつねの子がてぬぐいをひらひらさせて、もっていけって。 どうやら、あずきもちの礼のつもりらしい。 「ありがと、ありがと」 パクじいさんが礼をいうと、きつねの子はふりむきふりむき、すすきの穂のなかに消えていった。 おかしいやらうれしいやら。さっそく、首にかけてみた。 すると、みょうに体が軽くなり、まわりの景色がなんでもかでも、大きくみえる。はずすと元にもどることを知って、ようやく、きつねの子がてぬぐいをくれたわけがわかった。 虫になったきぶんであちこちさがすと、金のゆびわは都へつづく道の葉かげに、ころんところがっていた。 きつねのてぬぐいのおかげでゆびわをみつけたパクじいさんは、長者どんから米百俵もらった。 それからというもの、峠の道を通るたびにパクじいさんは、にぎりめしを三こ、切り株の上においておくんだって。 ◇ ◇ きつねが登場する話で最もポピュラーなのが「狐の妹と三人の兄弟」だ。日本昔話の「三枚のおふだ」と「妹は鬼」の混合型だ。元はユーラシア型。グリム童話「水の魔女」で、逃走モチーフだけの話がある。 |