ウリマルとトンポ社会―仕事の場で 3

コリアの才能を世界へ

商品開発の最大「武器」


ドイツ・ハノーバーのコンピューター展示会で商品の
説明をするユニコッテクの朴成律企画開発事業部長(3月)


理念共有する北南の技術者

朝鮮と商品開発

 昨年7月に設立された(株)ユニコテック。同社は朝鮮語入力ソフトを開発、販売する同胞企業シージーエスと北で委託加工事業を行っている南のパソコンモニター製造企業IMRI社を母体にした情報技術(IT)ベンチャー企業四社による合弁だ。パソコンや携帯情報端末を通じた自動通訳技術の開発を手掛けている。北南が技術提携し互いに利益を生み出し、朝鮮民族、ひいては東アジア全体の発展に寄与することを目標にかかげている。

 同社の企画開発事業部長、朴成律さん(36)にとってウリマルは欠くことが出来ない「武器」だ。

 朝鮮大学校外国語学部を卒業後、朝鮮学校教員を経て95年にシージーエスに入社。朝鮮民主主義人民共和国の技術陣とのソフト共同開発に関わってきた。

 朴さんが入社したころ、シージーエスはコンピュータ分野における朝鮮の技術に注目し、その技術を日本向けに商品化する事業に着手していた。そこで朴さんは朝鮮コンピュータセンターとの技術提携を担当することになり、2ヵ月に1回のペースで朝鮮を訪問するようになった。ウリマルの世界である。

 朝鮮のエンジニアに商品のアイデアを説明する。また、朝鮮における技術の進展状況を調べる。もちろん、日本と朝鮮ではコンピュータ用語から違う。とくに外来語の訳し方はまったく違う。コンピュータ用語から1つ1つ覚え、協議と折衝を重ね、朝鮮語入力システム「すらすらハングル」などの商品を開発した。

在日のユニークさ

 シージーエスが朝鮮の技術者と開発した「すらすらハングル」は、今やユニコテックの看板商品となり、売り上げは着実に伸びている。南と日本との人的、物的交流が進んでいることから日本で朝鮮語を学ぶ人が増え、日本社会でも生活、ビジネスなどの各分野でニーズが高まっていることが背景にある。行政のサービスの紹介、店の看板やメニューなどはほんの一例だ。

 この商品開発に在日同胞の視点、アイデアが生かされている。

 在日同胞社員でマネージメント本部の李清志部長(45)は、「例えば入力ソフトはフォントを百書体そろえているが、業界一番の数だ。様々な場所や空間を想定しながら作った。日本におけるウリマルのニーズを知っているからこそできる商品づくりがある」と強調する。翻訳ソフトは北南朝鮮でそれぞれ違う単語や、文字表記に対応したもので、他社にない機能だ。

世界のコリアン繋ぐ

 ユニコテックが設立されてから朴さんは、南の社員と机を並べて仕事をすることになった。ウリマルは日常的な風景である。

 コンピュータモニターを製造し、米国、欧州に輸出している南のIMRI社は、朝鮮の技術を日本向けに商品化したシージーエスの実績を評価し、ビジネスのパートナーに選んだ。それだけに、朝鮮における技術の進ちょく状況や、日本の業界事情を知らせることが朴さんら同胞社員に課せられた。一方、IMRI社は世界規模で事業を展開した実績を持つ。互いにつちかった経験、情報がウリマルを介して交換される。

 今年の3月、朴さんは欧州最大のコンピュータ展示会「セビット2001」に参加するため、ドイツ・ハノーバーを訪れた。IMRI社のモニターやユニコテックの各種ソフトを宣伝するためだ。南の社員が欧州の市場を自分の目で見てくればどうか、と声をかけてくれたのだ。

 ウリマルが使えたからこそ朝鮮の技術者とともに開発できたソフト。それをドイツで、しかも南の同僚と一緒に宣伝できたことに、朴さんは特別な感慨を抱いている。

 この仕事を始めた当時、朴さんは夢見たことがある。「世界中のウリマルを知るコリアンがコンピュータを通じてつながればどんなにいいだろう」。初級部の頃から学んだウリマルが、夢を現実に変えつつある。

 しかし、朴さんにとってウリマルはビジネスを成功させるためだけのものではない。ウリマルを話せたからこそ、北南の技術者と絆を深めることが出来た。

 「『北、南どちらかではなく民族全体が勝つためのビジネスをしよう』。この理念を共有し、実現する力をもった仲間と出会えたことが一番嬉しかった。北南の同僚が同世代だけに余計そう感じる。どんなにしんどくても力が沸くのは同僚たちがいるからです」    (張慧純記者)

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