在日同胞と介護保険制度―制度施行1年を迎えて―

好評だが、同胞には問題も

言葉の壁、一割負担、コミュニケーション…

洪東基(共和病院医療福祉相談室・医療ソーシャルワーカー)


求められる同胞の施設、スタッフ

 介護保険制度が施行されて1年が経つ。ふたたび、制度検証ということで周囲はにぎやかだ。

 とくにマスコミは、介護保険の制度やサービスに関する事柄について検証記事や番組などで色々取り上げている。しかし、無理にケチをつけているとの指摘も聞かれる。

 筆者は、従来の措置制度によるサービスの提供から利用者本位によるサービスの選択と利用というシステムは、非常にうまく機能しているのではないかという感触を受けている。

生活にリズム

 1年前、つまり施行前と当然ながら異なるのは、制度を利用してみて、という視点になっているということだ。共和病院の利用者は制度施行が機会となって福祉サービスの利用に至った方が少なくない。これらの方々は、「以前」がないので、サービスを利用した感想を率直に語ってくれる。おおむね好評である。

 1人暮らしで外に出る機会の少なかった高齢者が「デイケア(通所リハビリテーション)」を利用することで、こもりがちだった生活にリズムができたり、家族も一時の介護疲れをいやすことができる。しかも送迎付きで入浴も可能、食事も提供される。

 また、ヘルパーに来てもらうことで介護はもちろん、掃除や洗濯などの家事をまかなうことができ、利用者は至れり尽くせりだ。また、制度に精通していてサービスの利用のみならずあらゆる相談に親身に応じてくれる介護支援専門員(以下ケアマネージャー)と出会うことにより、老後の心配はだいぶなくなるのではないかと思う。

 介護保険制度における1号被保険者(65歳以上)による保険料の徴収が昨年10月から始まったが、「こんな保険に加入した覚えはない!」と、役所に抗議した高齢者が後を絶たなかったそうだ。

 その後、保険料を支払うのであればとサービスの利用が徐々に増加しているようである。

4つのハードル

 ところで在日同胞高齢者は日本人と同じような視点で制度をとらえているのかといえば、必ずしもそうとは言いがたい。まず、制度そのものを理解している在日同胞高齢者が非常に少ないと思われる。また、制度を利用している方はごく一部であり、なかには在日同胞は介護保険とは関係がないと思っている方もいるようだ。さらに、介護保険を受けるにしても、在日同胞高齢者は少なくとも4つのハードルを乗り越えなければならない。

 第1に無年金者の場合、保険料をどうやって支払うかだ。

 65歳以上の高齢者の場合、保険料は基本的に「特別徴収」(年金受給者で年金から引き落とし)となる。年金受給者が少ない在日同胞高齢者の場合は「普通徴収」となり医療保険料に上乗せして直接支払うことになる。だが、制度を理解していない同胞高齢者がすんなり介護保険料を支払うかが問題だ。

 第2は、サービス利用時の1割の自己負担をどのように支払うかだ。

 保険料を払えばサービスは受けられるが「無料」ではない。かかった費用の1割は負担しなくてはならない。保険料の支払いもままならない同胞高齢者が一割の利用料を支払ってまでサービスを受けるかである。

 第3は、言葉の壁は介護認定を左右しかねないという点だ。

 介護保険でサービスを受けようとすれば要介護認定を受けなければならない。その際、ケアマネージャーによる訪問調査(85項目)を受けなければならないが、日本のケアマネージャーなら充分な調査ができずに妥当な判定ができない可能性もある。

 第四は、介護者とのコミュニケーションをどうするのかという点だ。

 介護計画(ケアプラン)を立てるに当たって、それを立てるケアマネージャーやサービスを提供するヘルパー、施設のスタッフにも在日同胞は少ないという現状で、同胞が同胞高齢者を看るのはおおよそ不可能であろう。

 そうなれば言葉の壁がサービスの提供を阻害することになるかもしれない。

制度への啓もう

 今後も、介護保険制度は順調に1人歩きしていくであろう。まだまだ制度において「ブラックゾーン」はあるが私たちはどの方向に行くのか見守らなければならない。そして、同胞高齢者やその家族に制度に対する啓もう活動を行うと同時に、同胞高齢者に親身に対応してくれる良心的な事業所等を紹介して、制度をうまく利用するようにすべきではないだろうか。

 私は現在ケアマネージャーの実務研修を受講中で、この6月からケアマネージャーとして活動する予定である。利用者、とくに同胞高齢者に選ばれるケアマネージャーを目指して介護保険制度にかかわっていきたいと思う。(ホン・ドンギ)

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