BOOK
時代に命吹き込む語り
「語りの記憶・書物の精神史」
米田網路編著社会評論社 本体2500円
書評紙という舞台で、インタビュー形式による本の紹介を連載したものが、1冊にまとめられた。したがって、書物の内容や著書のモチーフのみならず、歴史と人間の省察ともいうべきものが、各人の語りの中から鮮やかに浮かび上がってくる。
16人の語り部は証言の時代としての20世紀を赤裸々に語り続け、時代に刻印されたかけがえのない「記憶」に命を吹き込むのだ。 花岡事件を追い続ける作家・野添憲治さんの話も迫力がある。日本社会全体が過去の罪状を闇から闇へと葬り去ろうとしている間に、ひとつひとつ、強制連行の現場を歩き、丹念に史料を見つけ、証言者を発掘して聞き書きしてきた野添さん。その40年の歳月はまさに「日本の闇」を見据え続けた年月だったのだ。加害の記憶を消し去り、被害者の記憶さえ抹殺しようとする政治的暴力の時代。忘却にかまける現代に抗し、棹さす野添氏の志とみなぎるパワーは、東北のどっしりした風土に根ざし、発信されている 。4.3事件と私」と題する詩人・金時鐘さんの証言も感動的だ。想像さえできない過酷な人民弾圧統治と虐殺事件。それを目撃した人の絞り出すような記憶が、半世紀の歳月を手繰り寄せて今、明らかにされた。「事件にからんだ記憶が、胸の奥底ですっかりぎざぎざのまま凝固してしまって、このままあの世へいきたい」、そう思い続けた人が、心情を吐露するまでには、計り知れない葛藤があったことだろう。日帝協力者や民族反逆者たちを吸い上げた米軍政機構の暴虐、無念の死を強いられる民衆、残された遺族の苦痛。語る人の辛苦と血の涙を理解せずには読めない。 それぞれの語り部の魅力を十分に引き出したインタビュアーの力量は並大抵ではない。(粉) |