取材ノート
断食と「日本の姿」
「忙しくて朝から何も食べてない」とぼやきながら仕事を終えた深夜、その日最初の一食にやっとありつけるということはある。しかし数日間、何も食べずに過ごした経験はない。
6日間、水と塩しか口にしていない人に初めて会った。頭はボサボサで服もヨレヨレ。顔は黒ずみ、無精ひげも生えている。寝床も、冷たいアスファルトの上に敷いた毛布だけだ。しかし記者が訪ねていくと彼は意気揚揚と両手を差し出し、「よく来たね」と大歓迎してくれた。 その人は、南の国会議員、金泳鎭さん(民主党)。「新しい歴史教科書をつくる会」が日本の侵略史をゆがめて記述した中学歴史教科書の検定合格に抗議するため10日に訪日。衛藤外務副大臣らと面会するが、政府が関与できないとつっぱねる態度に絶望し、一晩中悩んだ末の明け方4時に、ハンガーストライキを決意したという。 その朝から6日間、国会議事堂がよく見渡せる衆議院第2議員会館の前に座り込んだ。キリスト教徒でもある金議員。水と塩以外は口にせず、静かに神に祈り続けた。日本各地のキリスト者を中心に支援の輪が広がり、花を一輪、携えてくる市民もいた。また社民党・土井たか子党首をはじめ、50余人の衆参国会議員も激励に訪れたという。 暖かくなったとはいえ、まだまだ夜は冷え込む季節。昼夜の寒暖の差は53歳の体にはこたえたはずだ。ドクターストップがかかり、6日目にして断食祈とうを終えることになる。 「歴史をわい曲し、過去に逆戻りしようとするのが日本の真の姿なのか。でもこの間、決してそうではないと分かった。訪ねてきて激励してくれる市民らと語り合う中で希望を感じた」 しかし、日本のど真ん中で1週間近く断食していたのに、日本のマスコミの扱いは微々たるものだった。「日本の真の姿」は一体どこにあるのだろうか。(韓東賢記者) |