日本政府の報告書審査 人種差別撤廃委員会を傍聴
差別を野放し、厳しく指摘――処罰法の整備求める
前田朗・東京造形大教授に聞く
本紙既報のように、日本政府の人種差別撤廃条約の順守状況を審査する人種差別撤廃委員会(以下委員会)による初の審査が先月、ジュネーブの国連欧州本部で行われ、在日同胞の処遇に関する問題など、日本政府が提出した報告書に対し、厳しい質問が相次いだ。人種差別撤廃委員会NGO(非政府組織)連絡会の一員として、現地で審査を傍聴した、前田朗・東京造形大学教授(在日朝鮮人人権セミナー)に話を聞いた。
関係者からの調査、具体的な啓発必要 □ ■ ――日本政府は今回初めて報告書を提出したが。 日本は95年、米国が批准した直後に慌てて批准し、96年1月に発効した。条約批准後1年以内に最初の報告書を委員会に提出し、審査を受けることになっていたが、97年1月の締切りを大幅に遅延して2000年1月に初の報告書を2回分として提出した。 審査の過程では、委員の中から日本がこの条約を批准するのに30年もかかったことが指摘された。日本は、同条約第四条の、差別宣伝、差別扇動などを犯罪と規定し処罰を求める項目は、「表現の自由」を保障した憲法に抵触するという理由から結局、条約批准に当たって、条約第4条の(a)(b)を留保した。 この点について、石原都知事の差別発言(「三国人発言」)に対する指摘の中で、「表現の自由は人種的優越思想の表現の自由ではない」と委員から厳しい指摘があり、こうした行為を野放しにし、対応が講じられていないことが問題で、そのためにも四条を留保すべきではないと指摘された。 □ ■ ――報告書の中身について、どのような印象を持ったか。 政府の都合のいいような記述が目立つ。まず、在日朝鮮人について、植民地化による国籍の押し付けや一方的な国籍はく奪の歴史を無視して「自由意思で国籍を選択している」となっている点や「朝鮮籍」を符号と称して差別してきた事実を隠している。 朝鮮人学校については「その殆どが各種学校として都道府県知事の認可を受けている」とあるが、文部次官通達によって「朝鮮人学校は、わが国の社会にとって、各種学校の地位を与える積極的意義を有するものとは認められないので、これを各種学校として認可すべきではない」と徹底差別してきた経緯をごまかしていた。 また、94年と98年のチマ・チョゴリ事件に対する報告の中で、法務省の人権擁護機関は、情報の収集に努める」と書いていながら、朝鮮学校の関係者から事情聴取をするなどの取り組みは、まったくしていない。事件の件数すら調査せず、新聞によると、などと記述していた。 さらに、啓発活動として「差別防止を呼びかけるリーフレット等の配布や啓発ポスター」は、朝鮮人は登場しないどころか、チマ・チョゴリの「チ」も出ていない。これでは、誰のどのような差別に対する啓発なのかわからない。 □ ■ ――今後、日本政府にどのような措置を促していくべきか。 1つ指摘できるのは、これまで日本政府は、NGOの批判をまったく無視してきたが、今回報告書を見て、大学受験資格問題などについて「大学への入学資格は与えられていない」などと、正直に記述している部分もあり、われわれの批判を意識していることがうかがえた。 だが、全体として感じるのは、政府が差別をしているという認識に欠ける点だ。例えば、今委員会が人種差別条約に違反する発言だと勧告した石原都知事の「三国人発言」について政府は、「都知事には人種差別を助長する意図はなかった」などと発言し、委員から「石原発言は単に差別であるだけではなく、外国人を犯罪者扱いしようとしたものであり、驚きを禁じえない」と強い口調で反論された。まったくそのとおりだと思う。 また、「外国人の三分の一を占める朝鮮人の法的地位に関する討論の促進や、特別な入国管理法が必要ではないか、法的地位を強化する必要もあるのではないか。日本社会で朝鮮人への理解が深まることを期待する」などの指摘もあり、人権セミナーとしての活動の重要性を感じた。 勧告にしたがって具体的な差別防止への処罰法を整備することなどを訴えていく必要があると思う。 □ ■ ――今後の活動について。 次回の報告書締め切りは2003年1月だ。しかし、その前に、今年8月末に南アフリカのダーバンで、「人種差別・人種主義に反対する世界会議」が開催される。 多くのNGOも準備を始めている。日本でも「人種差別撤廃条約NGO連絡会」と同様に、「ダーバン2001」実行委員会が発足される。継続してやっていくことが求められる。(まとめ=金美嶺記者) |