それぞれの四季

小さなデビュー 康明淑


 娘は希望するジャンルに進むため、朝高の授業を終えたのち、進学塾に通っていた。何10人の受講生に混じって、1人チマ・チョゴリ姿で。

 チョゴリ姿の制服を着た娘と街を歩くとき、時おり刺すような視線に不安を覚えていた私にとっては、そんな娘がちょっと頼もしく思えた。

 ある時、塾の英語講師がハングルは素晴らしい言語と言いながら、「, , , 」と黒板に書いて、「合っているよね」と娘に同意を求めたと言う。

 娘にとってチョゴリは良くも悪くも自分のアイデンティティーを確認するものだったと思う。

 この春、日本の大学に入学した娘。人との接し方で、これまでとは随分勝手が違うようだ。「キム・スネです」と自己紹介すると「中国人?」「留学生?」「どうして日本語しゃべれるの?」など、様々な質問が飛んでくるという。その都度、娘は「国籍は朝鮮で、祖父母の故郷が朝鮮半島の南で、父母と私は日本生まれで…」などと、律義に自分のルーツを解いていく。ほんの少しの勇気と根気がいる作業。しかし、これが初対面同士では利点も多いらしい。何よりも、他の学生から名前を早く覚えて貰える。ハングルを教えてほしいと友達にも頼まれたそうだ。焼肉、キムチ、W杯サッカーなど、話題がどんどん広がっていく。

 娘の小さなデビューは、今のところ順調のようだ。他者を容易に受け入れようとしない日本社会。これからも理不尽なことにぶつかるかも知れないし、悔しい思いをすることもあるだろう。そんな中で、朝鮮人の誇り、豊かな人間性をさらに育んでもらいたい。(会社員)

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