こども昔話
竜になりそこねた大蛇
李慶子
むかぁし、竜になりたい大蛇がいたって。
空を自在にかけめぐる竜がうらやましくて だれかれつかまえてきいたんだけど、みぃんなわらって、大蛇はあいてにされんかった。 ある日のこと、野ねずみが「風の谷の泉に竜が水をのみにくるんだって」 と、ものしり顔でおしえてくれたもんだから、つぎの日、ぞろりぞろりと風の谷にいってみると、野ねずみがいったとおり竜が水をのんでいた。 「わしのような竜になりたいって? おまえがか」 最初、青くするどい目を光らせて、ニタリニタリとわらうばかりだった竜も、大蛇があまりしつこいもんで、とうとうこんまけしたのか 「竜の桃を食らう」と、ぽろり、いったって。 「竜の桃?」 「ああ、1つ食らえば100年。2つ食らえば200年、3つ食らえば永遠のいのち。だけど…」 「だけど?」 大蛇がききかえしたら、それにはこたえんと 「実がなるまで千年。まてるか?」 こういって大蛇の顔をのぞきこんだから、大蛇もやたら首をふって「まてます、まてます」って、こたえた。すると竜は、芽がでたばかりの桃の苗木を大蛇の鼻さきにおいて それから千年。 けわしい岩のいただきでとぐろをまいて、大蛇は旅の坊さまがくるのをじっとまった。 遠くに背をかがめて野良仕事をする百姓のすがたが、点々とみえる。 千年のあいだ、このたいくつな景色をながめ暮らすうち、じまんのうろこはひからび、風が「ふん」とうなる日には、いちまい残らずはがれ落ちそうになっていた。 大蛇は久しぶりに深く息をすった。頭の上で甘い蜜のにおいがした。金色のうぶげをぎっしりはわせた桃が、風もないのにぷりんとゆれている。 大蛇はごくんとのどをならした。においの先にいつやってきたのか、旅の坊さまがいた。坊さまは大蛇には目もくれず、おいしそうに桃をたべた。 桃をたべるたびに坊さまののどがこくんこくんとなった。 甘い蜜のにおいがあたり一面にただよった。 大蛇はとうとうしんぼうできずに坊さまの手から桃をうばうと、あとはもう、くるったように口にした。 ところが、ぎちぎちぎちぎち音をたてながら大蛇はどんどん小さくなっていく。最後の桃がのどをすりぬけたとき、大蛇の姿はどこにもなかったって。 ◇ ◇ 蛇はその姿形から、総じて嫌われしものとして描かれているが、人間の母から生まれた蛇が美しい娘を嫁にもらう「青大将婿」のように、異類婚の代表的な話もある。この作品は筆者の創作である。 (リ・ギョンジャ、児童文学作家。第3週の水曜日に掲載) |