研究成果を統一祖国に
各分野で活躍する若い世代の同胞科学技術者
科学技術の飛躍的な進歩によって、人間生活に根本的な変革が到来するといわれる21世紀。在日本朝鮮人科学技術協会(科協)所属の同胞自然科学者、技術者たちのなかには、このようなすう勢に遅れることなく、世界レベルの研究を推し進め、その成果を統一祖国に生かそうと打ち込んでいる科学技術者が少なくない。朝鮮学校で民族性を身につけ、各分野で活躍する若い世代の3人の同胞科学技術者を取材した。(社会・生活欄に座談会)
稲の発病メカニズム研究 奈良先端科学技術大学院大学研究室助手 蔡晃植さん(40) 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科細胞間情報学研究室助手の蔡晃植さん(40)。 研究内容は、「植物の発病と防御のメカニズムの解明」。中でも、5年ほど前から専門的に携わっているのが、稲の免疫システムに関する研究だ。 蔡さんによると、植物に病気を起こし得る病原菌は数千種類を数えるが、多くの植物はほとんどの病原菌を自ら察知し、発病する前に殺菌する機能、つまり免疫を備えているという。 では、植物は病原菌をどう認識し、発病を防いでいるのか。残念ながら、そのメカニズムの全ぼうの解明には至っておらず、その解明が「この10数年の間に世界的すう勢になった」(蔡さん)。現在も多くの科学者が研究に携わっているという。 植物の免疫の研究が進めば、免疫の弱い植物に人工的に免疫を与え、病気に強くすることが可能になる。 「病気によって死滅している植物は世界中にたくさんある。これらの植物、とくに稲を救い守ることで、人類の食糧危機を未然に防ぐことも可能になる」と、蔡さんの夢はふくらむ。
魚の受精プロセス ユニーテック株式会社ライフ研究所研究員 河昶洛さん(30) 発生生物学を専攻する河昶洛さん(30)。上智大学大学院、同大非常勤助手時代の八年間の研究成果を踏まえ、4月からユニーテック株式会社ライフ研究所で研究を深めている。 研究内容は、卵膜硬化(受精卵が固くなること)の要因を調べることだ。通常、未受精卵は柔らかくて固くならないが、受精後約24時間が経つと固くなり、順調にふ化できる環境が整えられる。ところがここ数10年、例えば「ニジマスを養殖する際、受精後卵が固くならず、生産地から養殖所への移動中に、つぶれてしまう現象が多数発生している」(河さん)。 河さんは8年間の研究を通じて、その原因解明に近づくことができたという。 「研究の結果、卵膜には二種類の卵膜トランスグルタミナーゼが存在することが分かった。どうやらこの酵素が、受精後にどのような行動を取るかによって、卵が固くなるかならないかを左右しているようだ」 今後研究が進めば、養殖を容易に行うことができるようになり、食糧増産につなげることができる。また生物の進化過程を解明することにもつながる。
水の科学反応の画像化 李秀栄さんの研究内容は、「水和クラスターの構造と化学反応性」。 水和クラスターとは、水分子(H2O)が数十〜数万個集まった集団を言う。李さんは、それと、塩素(NaCl)などの違った分子が結合したとき、水の分子がどういう化学反応を起こすのかを、コンピューター画像でデザインしている。これを分子設計という。 人間の体の約3分の2は水で構成されていることから、水の研究は薬品の適合性など、人間の体内で発生する化学反応を分析・解明するうえで大きな役割を果たす。 しかし、まだコンピューターによる研究法が統一されていないため、薬品の開発などにはばく大な時間と費用がかかっている。李さんはそんな現状を打開し、「より高度な技術を持って研究の簡素化を図りたい」のだ。
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