高齢化の中、時間との闘い
強制連行史にハルモニの証言を
金静媛
刊行された「朝鮮人強制連行調査の記録」
過去の日本の朝鮮植民地支配が清算されないまま21世紀を迎えた。
このたび、朝鮮人強制連行真相調査団は「朝鮮人強制連行調査の記録―中国編」(柏書房)を出版した。 本書は、中国地方5県(山口、広島、岡山、島根、鳥取)の強制連行、強制労働の実態を資料調査、現地調査、証言収集によって全容を総合的にまとめたものである。五県の中で、朝・日合同調査団が結成されているのは山口県のみであるが、各県の朝鮮関係に精通した研究者、各調査の会のメンバーなどとの連携をはじめ、教員、主婦、生徒らを含め朝・日の広範な層のボランティアの人々の協力によるたまものである。 また5県のみならず、静岡県調査団の日本人側団員が資料作成の膨大な作業を担当するなど、各地団員の協力も特記しなければならない。 何よりも本書の特徴は、関釜連絡船の波止場のあった山口県下関市での調査に始まり、解放後、鳥取県や長門市仙崎港からの帰国の状況など、強制連行の玄関口と出口を総合的に解明したことである。中でも山口では団結成から約7年間の調査が集約されている。 この編集の過程で、私たちは発掘した事実について、それぞれ被害者、加害者の立場に立って、歴史認識について何度も議論を重ねながら執筆作業を進めた。 私は、この本の編集に携わり多くのことを学んだ。生き証人である1世同胞の証言を、すこしでも多く収集しなければと、岡山は「証言収集委員会」を発足させ、記者会見など、マスコミを通じ広く体験者に呼びかけ精力的に取り組んだ。朝鮮学校中級部の生徒もメンバーに加わり、香川県に住む自分のハラボジの証言を聞き取った。 また、これまで証言収集の対象者が男性に偏り、女性の証言が欠如していたことに私たちは気づいた。 その反省から植民地支配の被害者という視点で、女性の証言を収集しなければと、下関では朝鮮学校教員、主婦、総聯支部の職員など、女性らで「聞き取りの会」を作り、10数人のハルモニを対象に話を聞くことになった。 日毎に高齢化が進む1世宅の訪問は時間とのたたかいでもあった。聞き取りの中で、予想外だったのは、1948年に「朝鮮学校閉鎖令」が発令された当時の証言が、それぞれの口から語られたことだった。 下関朝鮮初中級学校周囲を取り巻く警察隊に向かって、唐辛子の粉を撒き散らす目つぶし作戦で挑み、駆け上がって襲ってくる警察隊を先回りして、坂の下で秘かに待ち受け、警察隊の足を引っ張って将棋倒しにし、抵抗したハルモニたちの果敢な闘いのエピソードを初めて知った私たちは、民族教育を死守した1世同胞に心からの敬意の念で胸が一杯になった。この話を語ってくれた申貴媛ハルモニは今年2月、本の完成も見ずに惜しくも亡くなられ、私たちは再度、聞き取り調査の重要性を思い知らされた。 ◇ ◇ 宇部の長生炭鉱で働かされ、5年前に亡くなられた呉周烈氏は「日本の過去の歴史は曲げることができない。覆い隠しても皆世間が知ってることなんだから高校の教科書とか、大学の教科書にちゃんと載せるべきだと思う」と言い残した。 しかし、こんにち「新しい歴史教科書をつくる会」などが、教科書から加害の歴史を隠ぺいし、わい曲しようとしている。 愛知調査団の訪朝によって収集された、岡山・三井造船に連行された崔英植氏(咸鏡北道在住)は「日本は私たちに謝罪と補償をしなければならないのに、なぜ敵視政策をとるのでしょうか」と訴えた。 「足を踏まれた者は、今もその傷がうずく。しかし、踏んだ者は踏んだことすら忘れている。これでは戦後はいまだに終わったとは言えない」。関門トンネル工事にも携わった崔英植氏は強調した。 共和国に関するデマ宣伝が報道されると、なぜ、今も朝鮮学校女子生徒のチマ・チョゴリが引き裂かれるのか。 ◇ ◇ 私はこの間の編集作業を通して、私たちの真相究明、調査活動は単に「クァゴルル イッチマルジャ!(過去を忘れるな)」と言うことのためではないこと。 1世の尊厳を回復し、戦後、半世紀を過ぎた現在も2、3世が引き続き様々な差別を被っている日本社会の現状に目を向け、人権の見地から捉えることが、今後の活動において不可欠であると痛感するとともに、多くの人々にこの本を普及し正しい歴史を知ってもらいたい。 戦後を1日も早く終わらせ、真相究明によって過去の清算、朝・日国交正常化を実現させ、真の朝・日の友好の未来を築くために、私たちの活動の新たな1ページは、今日から開かれようとしている。 |