朝高生の大学受験資格差別問題
民全連調査
民族学校卒業生の受験資格に関する
アンケート調査報告書(2001.1.30)
民族学校の処遇改善を求める全国連絡協議会
【調査の概要】 1.調査の趣旨 現在、在日同胞(朝鮮・韓国籍)の子どもたちの通う民族学校(朝鮮学校と一部の韓国学園)は「学校教育法第1条」に定める「学校」、いわゆる「1条校」に準ずる扱いを受けていないため、様々な制度的差別が存在する。 自らの言語や文化を学ぶ民族教育を受ける権利は、「子どもの権利条約」、「人種差別撤廃条約」、「国際人権規約
自由権規約」などでも保障されている。日本弁護士連合会(日弁連)は1998年2月、日本政府に対し、「重大な人権侵害」だと是正勧告を出した。そして、国連の各関係機関でも繰り返し議論され(国連子どもの権利委員会、国連人権小委員会、同委員会マイノリティ作業部会、国際人権規約・自由権規約委員会)、日本政府に勧告している。 私たちはその中でも、民族学校卒業生の受験資格問題の改善を主に取り組んできた。我々が前回(1996年)(注1)に行った調査では公立・私立とも過半数を超える大学が民族学校を1条校に準ずる教育を行っている学校として認め、卒業生の受験資格を認めてきた。 昨年、文部省(当時)はいわゆる「大検の受検資格の弾力化」を発表した。この決定により、民族学校の生徒たちにとって、国立大学をはじめ受験資格を認めない大学を受験するためのハードルが2つ(高校在籍資格取得のための通信・定時制高校とのダブルスクール+大検)から1つ(大検)になったものの、日本学校の生徒に比べて、彼らに大きなハンデがあることには変わりない。 今回、私たちは全国にあるすべての4年制大学を対象に、民族学校卒業生に受験資格を認めているかどうかを改めて調査することにした。 そのことにより、日弁連や国連各機関での勧告が民族学校出身者の処遇改善に影響を及ぼしているのか、一方、文部省(当時)の「大検受検資格の弾力化」決定が各大学にどのように検討されているのか、民族学校出身者の大学受験資格認定にどのような影響を及ぼしているかを明らかにしたい。 (注1)1996年調査時、本団体名は「民族学校出身者の受験資格を求める全国連絡協議会」であったが、2000年6月、「民族学校の処遇改善を求める全国連絡協議会」に改称した。 2.調査方法 −調査方法 アンケートの郵送−FAX回答及び電話取材 *電話取材は、前回調査で「認めている」と回答したにもかかわらず、今回調査で「認めていない」と回答した大学に対してのみ行った。 ―調査期間(2000年6月〜11月) ・第1期…6月〜7月5日 ・第2期…7月6日〜8月31日 ・第3期…9月1日〜11月 なお、上記第2期の再依頼FAXには、「8月31日までに回答のない場合、『回答拒否』とみなす」と明示した。それにもかかわらず回答のなかった大学に対しては第3期に、再々度電話で要請した。今回調査では、第3期までに回答のなかった大学を「回答拒否」とみなした。 【調査の結果】 1.設問に対する回答について まず、今回のアンケート調査の設問項目順の回答結果は以下のとおりである。 「T、現在貴大学では民族学校卒業生の受験資格を認めていますか」に対する回答 表1
Tに対する回答
(注2)%=回答数/大学総数 −.主な「Bその他」の内容 −出願時審査(とくに公立で目立つ) −検討中 −文部省基準に従う −大検取得要件 −問い合わせ事例なし など 「U、Tにおいて@とご回答いただいた大学におたずねします。どのようにして受験資格を認定しておられますか」 表2
Uに対する回答
(注3)複数回答有り −.主な「Cその他の内容」 −学部ごとに審査 −願書提出前、教授会審査 −外国人学校修了者の認定規定 など 「V、Tの項目でAとご回答いただいた大学におたずねします。昨年の文部省の『大検受検資格の弾力化』の発表以前は、民族学校卒業生に受験資格を認めていましたか」に対する回答 表3
Vに対する回答
△
「Bその他」の内容 −学部によって不認定あり −検討の余地有り −1999年に新設 「W、Vの項目で@とご回答いただいた大学にお聞きします。その理由をお聞かせ下さい」に対する回答 Vの項目で@と答えた2校とも無回答であった。 「X、入学資格の募集要項についておたずねします。どの機関でいつ頃審議なされますか」に対する回答 回答は、大別して @入試委員会(=入試管理委員会、入試審議会・・・) A(各学部)教授会 B入試委員会及び教授会 Cその他学内委員会 に分けられる。 実施時期を四半期ごとに分けて整理すると以下の表になる。 表4
Xに対する回答
「Y、今まで貴大学において日本にある民族学校・外国人学校(一条校ではなく、もっぱら外国人を対象とした教育を行う機関)から受験申請の事例はありましたか」に対する回答 表5
Yに対する回答
△事例があった学校一覧 各朝鮮学校、東京朝鮮学園、東京中華、アメリカンスクール、インターナショナルスクール(沖縄、北海道)、マリスト国際、京都韓国学園、カナディアンアカデミー、横浜中華学院、新潟イリノイ 1.1996年調査結果との比較について 表6
1996年調査結果
表1に示したとおり、今回のアンケート調査の結果、民族学校出身者の受験資格認定校の総数は、262校となり、単純比較では前回調査に比べ12校の増加が確認された。 しかしながら、その内容を見ていくと以下のことが分かった。 (1) 今回調査により新たに受験資格を認めた大学は60校である。 (2) 一方、前回調査において受験資格を「認めている」としながらも、今回調査においては「認めていない」と回答した「認定基準変更大学」が43校にものぼる。その主な理由は以下のとおりである。 (認定基準変更理由)*調査方法:電話取材 @「もともと認めていなかった」「もともと大検取得を要件としていた」(全体の約50%) A「検討中」「再検討」(全体の約40%) B「文部省の指導軽視できない」「以前が間違っていた」(全体の約10%) の3通りの理由が確認された。 (3) また、96年調査時以降3年間の間に新設された大学が35校あり、そのうち13校が受験資格を認めている。また、96年調査時以降大学名称を変更した大学が4校確認された。 (4) 今回調査の一方の特徴として、回答拒否(86校)が多かったことがあげられる。これらの大学の一部に対して改めて電話取材をしてみたところ、実際には「認めている」あるいは「出願時審査」だと明かした大学もある。しかしながら、それらの大学のほとんどは「公的には大学の態度を明らかにできない」という理由から、公式な回答については「回答拒否」とするものであった。要するに、大学側でのダブルスタンダード(公の発表と実際が異なる)が確認されたのであるが、その理由が文部省の指導や指針によるものであることから大学側の動揺がうかがえる。 3.主要都市(都市圏)とそれ以外の地域との比較について 表7
[東京圏]東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県
表8
大阪府、京都府、兵庫県
表10
[東京圏][大阪圏]を除いた場合
1999年末の法務省入管統計によると、在日同胞(朝鮮・韓国籍)の総数は約63万人(そのうち約53万人が特別永住者)であり、日本に住む外国人の41%となる。また、とくに在日同胞の多く住む大阪圏には約27万人、東京圏には約15万人が暮らし、合わせて全在日同胞の67%を占める。 そこで、とくに在日同胞の多く住む大阪圏、東京圏とそれ以外の地域での大学受験資格認定状況について比較してみると以下のことが分かった。 (1) とくに在日同胞の多く住む大阪圏での受験資格認定状況は、それ以外の地域(表10)での水準をはるかに上回っている(ほぼ2倍以上)。また、公立大学において回答拒否1校を除き、すべての大学にが受験資格を認めている。 (2) また、東京圏においてもそれ以外の地域と比較した場合、高い水準にあると言えるが、大阪圏ほどではないことから、単純に在日同胞が多く住むからといって受験資格認定状況がいいとも言えない。 大阪圏の受験資格認定状況がそれ以外の地域と比較してはるかに高い水準にあるのは、在日同胞が多く住むという地域的な事情とともに、この地域における人権意識の高さ、あるいは民族教育に対する関心の高さ、そして地域の歴史性など(阪神教育闘争の伝統)が影響をおよぼしているのではないかと考えられる。例えば、民族学級の設置状況や民族学校に対する公的補助の状況も、やはりその他地域と比較して高い水準にある。 4.判断 (1) 今回の民族学校卒業生の大学受験資格に関する調査により、受験資格認定校の総数が前回調査(1996年)と比較して12校増加し、新たに認めた大学が60校(うち13校が新設校)あることが分かった。しかしながら、その反面43校にものぼる「認定基準変更大学」が確認されたことや、一部回答拒否校に対する電話取材から、1999年7月に文部省(当時)が発表したいわゆる「大検受験資格の弾力化」方針が、結果として「大学の自主的な判断」を鈍らせることにつながっていることがうかがえる。 (2) とくに、表9に示されるとおり、同じ地域でありながら国立大学の判断と公・私立大学の判断が180度違うという結果は、民族学校卒業生の受験資格認定に関して、「大学の自主的な判断」で「できる」公・私立大学に対し、「できない」国立大学の体質を示していると言える。さらに、一部回答拒否校に対する電話取材から大学側のダブルスタンダード(公の発表と実際が異なる)が確認されており、文部省と大学側の実際の判断には大きな隔たりがあると言える。 (3) 43校の「認定基準変更大学」に対する電話取材から、この問題に関する検討機関を置くなど大学側の取り組みや人事異動の際の実務継承がしっかりと行われていないことが分かり、大学側の関心の低さが露呈した。 【今後の対応】 「学問ならびに教育の機会均等のため」 「勉学意欲のある者に対し、門戸を広げるため」 「大学独自の判断を行う立場から」 「(民族学校が)いわゆる『一条校』に準ずる教育を行っている」 「国際化時代に外国人を受け入れるのは当然」 「入試は基本的に学科試験で判定されるもの」 「排除する必要性などどこにもない」 「受験資格を与えるなという方が間違っている」 ・・・ 以上は今回調査において、民族学校出身者の受験資格を「認めている」とした262の大学が、その理由としてあげた内容の一部だ。 「認めている」大学の多くが主張するように、向学心に富む学生が専門教育を受けるための権利は、教育の機会均等の観点からも当然保障されなければならない。増して、「国際化時代」とうたわれる今日において、民族学校出身者であるという理由だけで教育の機会が奪われるいかなる理由も存在しえない。 今回調査によって改めて明らかになったのは、@民族学校卒業生に対して結局のところ大学受験資格を与えまいとする文部科学省の姿勢A文部科学省の指針・指導の枠組みの中で独自の判断ができない一部大学の存在――である。 私たちは、民族学校卒業生がすべての大学で教育の機会均等を保障され、大学という教育現場のすべてが真の国際化を目指して行くよう、以下のことを引き続き実行していく。 −. 今回の調査結果をもとにいまだ解決されていない民族学校卒業生の大学受験資格認定状況の実態を広く伝え、解決のための世論を喚起していく。 −.文部科学省に改めて要請を行い、問題解決を促す。 −.「検討中」、「認める余地のある」と回答した大学を中心に、大学の自主的な判断で受験資格を認めるよう要請を行う。 以上 |