女のCINEMA

ペイ・フォワード

「可能の王国」

自浄作用促す
善意の輪


 ペイ・フォワードとは、主人公の少年による造語で、他者からの恩や思いやり、善意を受けたことに対し、別の相手に厚意で報いることを意味する。

 これは中学1年のトレバーが、社会科授業の課題「自分の手で、世界を変えるためには何をしたらいいか」で考えだしたもの。各自が3人ずつに対して行うネズミ算式の善行。

 このペイ・フォワードを通して、米国社会の現実と救いを求めてさまよう人々との関わりを描いたメッセージ・ドラマ。

 トレバーは傷つきながら育った。トレバーを捨てた父はアルコール依存症。いつも母に暴力を振ってきた。その母もまた、アルコール依存症から抜け出せないで苦しんでいる。学校では、いじめや恐喝が横行。見て見ぬふりをする自分の勇気のなさにも心を痛める。

 ペイ・フォワードの対象に選んだのは、近所のホームレスの男、トレバーの母と顔にひどい火傷の跡のある社会科のシモネット先生、そして恐喝にあっている友人。

 ホームレスの男を家に招待、更生を促す。互いに惹かれあっている母とシモネット先生のデートをセッティングするなど、トレバーなりの善行を試る。

 しかし、ホームレスの男は家を出ると再び麻薬に溺れ、母とシネモット先生も心に深い傷を持ち、返ってバリアーを築いてしまう。

 挫折感に打ちひしがれながらも、3人目のペイ・フォワードを試るトレバー。

 トレバーとシネモット先生を結びつける鍵に、ドメスティック・バイオレンス(夫や恋人からの暴力)がある。ともに父親の母親への暴力に苦しみ、今なお強く憎悪しているからだ。そして、ペイ・フォワードは、トレバーの知らないところで思わぬ広がりを見せる。

 病む米国社会の断面を切り取ってみせ、人々の善意による救済で自浄作用を促すことに、希望が持てる。ミミ・レダー監督。2時間3分。米国映画。(鈴)

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