取材ノート

名前について

李相美


 少し前にこんなことがあった。

 映画館の会員の更新に訪れたお客さんが、名前の変更がある、とぽつりと言った。見覚えのある若い女性のお客さんだった。あぁ、結婚でもしたのかな、と思ったらどうも違って名字がなじみのある一文字になっていた。とっさに「失礼ですが在日の方ですか」と聞いてしまった。今考えるとアホな質問である。在日だったら何だってんだ。同族バンザイか?

 ながいこと本名で生きてくると、名前の使い分けが気になることが多い。朝鮮人どっぷりの世界で本名を名のるのは当然で、日本名は使わない、使ってはいけないものだった。しかし大きくなるにつれ、外では通名を使っている大人たちに大きな矛盾を感じ、またそれに従っている自分にも憤りを感じた。もう少し大きくなると、したたかに通名をつかう一部の大人がいる一方で、通名を使わざるを得ない多くの大人たちに痛く同情した。どちらが良くて悪くて正しいのかなんて、在日が長い年月を経た今、誰にもわからない。それがわかる人間はいないのである。私が本名を使ってるからって偉いわけでも何でもない。逆に彼女が通名を使っているからって卑屈になる必要もない。要は、本名だろうが通名だろうがチャンポンだろうが本人が納得してるかどうかである。自己の存在を認識して、その上での選択なら胸をはればいい。結局、更新の彼女は在日で、一人暮らしを機に全部本名にしようと思うとのことだった。私は極力軽くしなやかに「そうでしたか」を言った。この先にもこんな出会いがあるといいな、と思いながら。(シネマスコーレ スタッフ)

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