18世紀の最高傑作 「春香伝」
社会封建 身分差別を痛烈に批判
人間性の尊重、回復訴える
成春香と李夢竜が再会する場面(平壌・烽火芸術劇場)
北での公演/民族文化遺産の継承発展を
1、2の両日、平壌の烽火芸術劇場で北の国立民族芸術団と、南の「春香文化宣揚会」芸術団―南原市立国楽団が、それぞれ「春香伝」(チュニャンジョン)の舞台公演を行なった。18世紀初めに創作されたという民族古典文学の最高傑作「春香伝」。今回、北が民族歌劇を、南が唱劇を披露した後、北の民族和解協議会のキム・リョンソン副会長は、「民族文化遺産を継承発展させていこう」と指摘した。今でも「北南や在日の人々の心をもっともよくつかんでいる「春香伝」とはどんな小説なのかー。 「春香伝」(岩波文庫)の巻末で、文学者の金台俊氏(1904?〜49年)は「まさに春香伝は近代朝鮮へ移る100余年間の時代の鏡であり、またこの時代の最大の傑作でもあった」と評価し、朝鮮の代表的詩人・許南麒氏も「朝鮮に小説が始まって以来の、朝鮮の民族文学の伝統的な精神の、総決算だともいえる作品である」と称賛を惜しまなかった。 文学博士・金思Y氏も「古典小説の典型を破った斬新な構成と燦然(さんぜん)たる文彩は、到底他の小説の追従を許さない」と評している(「朝鮮文学史」金沢文庫73年)。 作品には、当時の封建社会体制を痛烈に批判、風刺する箇所が随所に見られる。南原に赴任してきた両班・卞学道は好色の代表的悪官僚で、春香は卞の酌婦の求めに死をもって抵抗する。 「礼節は両班の邸にだけあってよく、妓女の賤家にはあってならないのか」 「夫ある身を劫奪(ごうだつ)するのは、罪ではなく何でござりましょう」 李朝の身分制度における妓生は、庶民の中でも最下層に属する賤民(せんみん)であった。そのため、妓生には貞操などは通用しない倫理観がまかり通っていた。自分の操を死を賭して守り抜こうとしたことによって、春香は最下層にいる庶民たちに代わり、人間としての正当な人格を主張したのである。 ◆ ◆ また、暗行御史となって南原に現れた李夢竜が卞学道の誕生祝いの席でうたった詩がある。 玉のようなる盤の上の佳(よ)き肴(さかな)は萬民(ばんみん)の膏(あぶら) 燭臺(しょくだい)のン磨iろう)が落ちるとき、民の涙も落ちる 歌聲(うたごえ)の高き處(ところ)に民の怨(うら)みの聲(こえ)も亦(また)高い この詩は、当時の封建社会の本質的矛盾を集中的に表現したもので、作品の思想を端的に表しているともいわれている。 詩を読み上げた後、夢竜は卞の悪政を暴き、春香を牢から解き放した。そして2人は上京し、めでたく結婚し、3人の息子と2人の娘と共に幸せに暮らす。 これは春香を通して、李朝の身分制度の矛盾、封建制度の不合理を打破して、人間性の尊重、人権の回復を訴えようとしたものであることがわかる。 むろん、問題がないわけではない。封建支配階級制度が民衆の力ではなく、王の「善政」によって正されるかのような幻想をあたえたり、要所要所に民衆の生活とはかけ離れた享楽的な要素が表れたりする。 しかし、このような思想的、時代的な制約性はあるものの、「我が国における19世紀以前の古典文学が達成しえた写実主義の里程標となった作品」(「朝鮮文学史」5巻、平壌94年)であることは確かだ。(金英哲記者) 物語のあらすじ 妓生(キーセン)の娘・成春香(ソン・チュニャン)は絶世の美女の上に清らかな心をあわせ持った女性である。 ある日、彼女は南原地方(全羅道)を治める両班の息子・李夢竜(リ・モンリョン)の目に止まり、彼から結婚を迫られる。やがて2人は愛し合うようになり、両親には内緒で夫婦の契を結ぶ。春の若草のように2人の愛は、日ましに育っていった。ところが、夢竜の父がソウルに栄転することになって、夢竜は父と共に上京することになった。いつかきっと迎えにくると、春香に誓い旅立つ夢竜。 南原に赴任してきた両班・卞学道(ピョナクト)はまれにみる悪代官で年貢を大幅に引き上げ、さらには夫ある身の春香に対して酌婦になるよう強要する。それを拒んだ春香を牢屋に入れて責めあげる。どんなに責められても夢竜との恋を貫こうとする彼女に死刑が宣告された。執行前日、李王朝の暗行御史(地方官の不正摘発、地方民情の探索を任務とする官職)となった夢竜が部下を連れて帰ってくる。そして… 若い世代に薦めたい訳文 「春香伝」は作者も、書かれた年代もはっきりしない作品である。また異本も多い作品だ。 そればかりでなく、実に朝鮮のほかの古典にはその類をみることができないぐらい頻繁に脚色され、劇や映画、舞踊やオペラにまでなっている。 現在、許南麒氏(1918〜88年)の訳による「春香傳」(岩波文庫 56年刊、昨年末から再版発行中)と、本社発行の「新編 春香伝」(朴春日・99年刊)がある。 とくに、若い世代に2冊を併せて読むことを薦める。きっと、古典の素晴らしさを感じ取ることができるだろう。 |