総聯過剰捜査を憂う市民集会での経過報告

朝銀問題に対する公正捜査を求める弁護団

吉峯啓晴主任弁護士


 11月29日の朝鮮総聯中央本部に対する強制捜索および差し押さえとその前日の元財政局長の逮捕はきわめて不当だ。

 朝鮮総聯は在日朝鮮人の生活と権利を守るうえで大きな役割を果たしており、その中央本部がいわば在日朝鮮人の精神的拠りどころであると同時に、朝鮮民主主義人民共和国の大使館的な役割を果たしているのは周知のとおりだ。

 ではなぜそこに対する強制捜索が行われたのか、その法的根拠はどこにあるのか。

犯罪性ない「借名口座」の融資

 朝鮮総聯は学校運営をはじめ様々な活動を行っており、当然必要となる資金の多くは在日朝鮮商工人らの寄付などによってまかなわれてきた。その取りまとめをする窓口、責任者が財政局長だと言える。

 日本政府の経済政策の失敗により10年近く不景気が続いている。在日朝鮮商工人の経済力も低下し、当然、寄付も減っていった。朝鮮総聯としては、「つなぎ」として朝銀から借り入れざるをえなかった。しかし不況が長引く中で、当初は間もなく返せるだろうと思っていたものが返せなくなっていった。

 総聯は法人ではないので財政局長名や職員らの個人名で借り入れるしかない。それが「借名口座」と言われているものだ。朝銀側も総聯への融資だと認識しており、ここには双方の合意がある。そしてこうした口座を通じて受けた融資については、朝鮮総聯が責任を持って返済すると言っており、すでに一部している。ここに犯罪性があるとは考えにくい。

 金融機関が破たんした場合、必ず誰かを逮捕するのが今の日本当局のやり方だ。そうしないと世間が納得しないという言い分である。もちろん、中には公私混同して私腹を肥やした悪い人もいるだろう。しかし、どこに責任があるのかをきちんと見極めず、最初から逮捕ありきという発想でやっているのはおかしなことだ。

 在日朝鮮人が金融機関からなかなか融資してもらえないというのは周知の事実であり、朝銀が在日朝鮮人の金融機関として果たしてきた役割は大きい。さらに担保が十分で絶対に返せる人は金利の安い都市銀へ行くだろう。不況も重なり、在日朝鮮人の多くはそうした状況になかった。必ずしも担保は十分ではないけれども一生懸命に返済していこうという同胞たちのために、朝銀の理事長たちも一生懸命やってきた人が大半だろう。

 しかし今、破たんした朝銀の関係者は、日本の金融機関の関係者より高い確率でほとんどが民事訴訟の対象になっており、大方は刑事問題でも起訴されている。やはり差別的な取り扱いがなされていると言える。

 さらに日本当局が朝鮮総聯と朝鮮民主主義人民共和国に対してある種の「レッテル」を貼っている中で、日本の捜査機関は、朝銀の場合は朝銀だけで済ませるわけにはいかず、どうしても朝鮮総聯まで踏み込んでいかないといけないと考えている。朝鮮総聯まで「やった」という実績を示さなければ捜査機関として面子が立たないという理屈がまかり通っているようだ。

知りながら嫌疑なき逮捕

 元財政局長への嫌疑はどうなのか。彼が財政局長として、つまり朝鮮総聯として正規に借りたお金については朝鮮総聯もきちんと届け出ており、今後いかに返済していくかという議論をしているところであるし、金融部門を監督している日本の各役所もその方向でともに処理を進めていたはずだ。

 ただ、朝銀東京の関係者の何人かが預金保険機構の調査や捜査官の取り調べに対し、よく分からないお金が振り込まれていた口座の存在について、これが朝鮮総聯の口座であり元財政局長が管理していると話したことは確かだ。しかし、これには事情があった。各朝銀に対する、先ほど述べたような「問題があればすぐに逮捕」という対応の中で、色々悩んだ末にそのように言い訳しただけであって、事実ではない。しかし捜査当局の方は「これはやれる」と思い込んでしまった。

 元財政局長はこの間、心臓や膝の関節などが悪くて1年9カ月も入院している。かなり悪かったがやっと膝の手術が終わり、リハビリに入ろうかという矢先だった。そういう状況にもかかわらず、逮捕されるまで5回も取り調べを受けた。そして、今起訴されている問題については知らないということを再三言っている。私たちも弁護士の立場として本人に色々聞いた末、彼が知らないということは間違いなく、そのことをよく考えて捜査すべきではないかと捜査側に話した。

 実は逮捕数日前からは、総聯の口座だということにしておいた方がいいという思いで捜査側に話した人たちが、やはり事実と違う弁解には無理があったということで、実はそうではないと言い始めた。にもかかわらず、元財政局長は逮捕された。

 当時、警視庁捜査2課がマスコミにリークしていたのは、元財政局長が管理をしている口座があり、それは通帳も印鑑も彼が持っている総聯の口座で、そこにお金が流れ込んだのだから、背任や横領に当たるということだった。そして実際そのように報じられた。しかし先ほど述べたように、実際は逮捕の前日か前々日にはそうではないということがはっきり分かっていた。口座を管理していたのは朝銀東京の理事長や副理事長だということが明白であり、それは警察も分かっていた。

次々変わる被疑事実

 では、どうやって逮捕、拘留できたのか。被疑事実の書かれている勾留状謄本というものを見ると、元財政局長、そして朝銀東京の理事長、副理事長が共謀して、組合のために業務上預かり保管中のお金を総聯中央本部の用途にあてる目的で、被疑者らが管理するこれこれの名義に入金して着服横領した、となっている。要するに、お金が何らかの形であって、それは組合のために保管していたのだが、誰が保管していたかの主語はない。自信がなくなったからあとから明確にしようとしてぼかしているのだ。

 口座についても「被疑者らが管理」とし、みんなが管理したことにしてごまかしている。マスコミに対しては元財政局長が管理していたとリークしていたのに、その後自信がなくなり、ごまかした被疑事実にした。しかしその後、元財政局長が管理していなかったということ、彼はその口座の存在さえも知らなかったということがはっきりした。

 朝鮮民主主義人民共和国の「大使館」であるという朝鮮総聯中央本部の特別な社会的地位を考えると、国際法的な常識からしても刑事訴訟法の原則からしても強制捜査をするということはありえないが、その問題を抜きにしても、そもそも嫌疑がないことが分かってしまったのに逮捕したのだ。やはり朝鮮総聯中央本部に踏み込みたいがための逮捕だった。

 そして昨日(12月19日)起訴されたわけだがその起訴状を見ると、また被疑事実が変化している。当初はお金をみんなで保管していたようなことになっていたが、このお金は朝銀東京の理事長や副理事長が管理していたということが明らかになったため、元財政局長は抜け落ちた。用途についても、「朝鮮総聯中央本部の用途にあてる目的」だとして逮捕、拘留しておきながら、「朝鮮総聯の使途にあてる目的」だとして中央本部をなくしてしまった。他の本部や関係各所に行ったお金もみんな総聯だという乱暴な議論をしないと起訴ができないような事実が、使途の問題についても次々と明らかになっているからだ。

 このように、この度の総聯への強制捜査、その前提となる元財政局長の逮捕、拘留、起訴は不当なものだ。私たちは今後の公判にあたっては無罪を主張し、捜査機関のでたらめぶりも含めて徹底的に真実を明らかにしていくつもりだ。

逃亡、証拠隠滅恐れなし

 一方で、万一嫌疑があったとしても、逮捕拘留というのはそう簡単にすべきことではない。大前提としては罪を犯したのではないかという嫌疑が必要だが、それだけでは不十分で、将来の裁判に備えて被疑者の逃亡と証拠隠滅を防ぐために、その恐れがある時しか逮捕拘留できないことになっている。

 元財政局長に関してはすべて該当しない。嫌疑が仮にあったとしても、高齢であり1年9カ月も入院していて膝の関節がまったく動かず毎日5時間も抗生物質を点滴しないといけないような状況の人がどうやって逃げるというのか。また当局注視の中で、彼のような社会的立場にある人がどうやって証拠隠滅などできるのか。

 つまり、逃亡の恐れも証拠隠滅の恐れもまったくなく、刑事訴訟法の基本的原則からしても逮捕はありえない。例えば、真相は分からないが、自治労の元委員長は罪を認めて在宅起訴になっているし、自民党の政治家などが汚職した際にも在宅起訴の例がほとんどだ。なぜ総聯の元財政局長だけが病院から引きずり出されるような形で逮捕されなくてはならないのか。

 さらに人道上の問題もある。逮捕には、入院先の主治医も院長も絶対にやめるようにと医学的資料を示して反対したと聞いている。逮捕時には主治医にも会わせず連行しようとしたそうだが、奥さんと医者が泣きながら抗議して主治医と5分間だけ会うことができたそうだ。

 捜査機関はその時、最高の設備と環境を持つ警察病院できちんと治療するので安心してくださいと言って連れて行ったが、実際に警察病院にいたのは1泊だけ。翌日からは東京拘置所に連行し、そこで取り調べを続けている。

 しかし実際にはもうほとんど聞くことがなく、まともな取り調べはしていない。過去5回の事情聴取の中できちんと説明済みで、他の人たちからもそれを裏づけるような供述を得られているからだ。結局は関係のないことまで根掘り葉掘り聞き、なんとか当初言っていたのとは別の被疑事実にしてでも起訴しようと、裏づけるための証拠を必死で探していたというのがこの20日間、東京地検と警視庁捜査2課のやってきたことだ。

実質的には「朝鮮大使館」

 実質的な大使館とも言える総聯中央本部への強制捜索が不当であることについてさらに言うと、大使館が治外法権であるのには理由がある。主権国家がそれぞれの考え方で国を運営しているのに、それに対して干渉すると問題が生じ、相互の自主性を尊重しないと国と国の関係を結ぶことが出来なくなるからだ。

 朝鮮民主主義人民共和国と国交がないのは日本の責任であるということからも、国交がないということを理由にするわけにはいかない。国交正常化交渉も行われているという状況を考えても、朝鮮総聯中央本部に踏み込むのはやはり許されるべきことではなかった。首相官邸、外務省などが機能を失っており、このような不当なことにブレーキをかけることができないこと自体大問題で、日本の政治危機の表れでもある。

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