残虐行為働く心理えぐる

松井稔監督に聞く


1947年東京生まれ。上智大学新聞学科卒業後、 73年よりフリーランスの助監督として独立プロ「近代映画協会」で新藤兼人に師事。84年より短編映画、 教育映画、 テレビ・ドラマ、 ドキュメンタリーなどを監督。98年より本作品の自主制作開始。
 「リーベンクイズ」とは満州で日本軍に襲われた中国人たちが発した言葉。漢字で書くと「日本鬼子」。まさに「日本鬼子」であった、元「皇軍」兵士14人の証言の記録映画が公開され、話題になっている。松井稔監督にインタビューした。(金香清記者)

1年かけて広がった上映の輪

 ―この映画を製作したきっかけは?

 8年前、新聞を通じて自らの加害証言を文章や地方講演などで行う、元日本軍兵士を知り、その人を訪ねた。このことをテーマにテレビ局などにドキュメント企画を持ちこんだが、全部断られた。その後その人が亡くなったことを知り、これは何としても、映画を作ろうと心に決めた。

 もちろんスポンサーもつかないので、友人からカメラ、スタジオなどを借りて、映画を昨年完成させた。

 昨年の8月17日から公民館などで8回程自主上映をやったが、反響はあまりなかった。その後たまたま知人がベルリンに住む人にこの映画を紹介し、それがきっかけでベルリン国際映画祭で上映できた。

 ベルリンで上映されて、これで上映も終りかなと思っていたら、アメリカ人の女性に英語版をつくるよう勧められ、また帰国後も英語版の要請が続いた。結局彼女が字幕を無償でやってくれた。

 そんなふうに色々な人々に支えられて、今日の一般上映、そしてアメリカ、ポルトガルなど海外での上映の輪も広がった。

止まらぬアジアからの追及の声

 ―映画を通じて伝えたかったメッセージは。

 被害者の証言は重要だが、それだけでは、戦争の実態は見えてこない。また加害の証言の中に人間の弱さ、恐ろしさがみえてくる。証言する人には、今現在、当時を振り返って、何を思うかということにはふれず、「当時何をしたか、どういう考えで行動したのか」ということに絞って語ってもらった。結果的に人間を人間と思わず、残虐な行為を平気でした当時の兵士たちの心中がリアルに語られた。

東京大学高橋哲哉助教授は「…今後、 日本軍が中国で何をしたかを知るためには、 この映画が特権的なメディアの役割を果たすだろう」と語った。

 戦争が終わって天皇は戦争責任がないとされた。この判断も、極東軍事裁判も全部アメリカ主導で行われ、日本人は「終わったんだ」と済ませてしまった。自分たちがしてしまったことを検証もせず、認識しないまま、50年間過ごしてしまった。だから今でもアジア諸国から謝罪や補償を求める声が止まない。

 日本政府は自衛隊をアフガンに派遣したが、戦争に行くと言う事は人が死ぬと言う事。日本は侵略戦争をして2千万人のアジアの人々を犠牲にした当事者として人の生き死にをもっと真剣に考えたり、話し合ったりする必要がある。

 ある帰国子女が書いてくれた感想文に、外国にいる時友達と話しながら、何と自分が自国の歴史について無知なのか思い知らされた、この映画を通して、長い間闇に隠された、日本の歴史を知ることができよかったとあった。

 そんな昔の話ではない、おじいちゃんの時代の話なのだから、若い人たちは、日本が「アジアで何をしたか」について知るべきだと思う。

映画 「リーベンクイズ−日本鬼子」

 1931年の満州事変から1945年の日本敗戦までの間、中国人に残虐行為を行った元「皇軍」兵士14人がその体験を語った記録映画。日本軍の残虐行為は既に知られた事実である。しかし731部隊の細菌兵器開発と人体実験、三光作戦(殺しつくす、奪いつくす、焼きつくす)などの「略奪」、「虐殺」、「拷問」、「強かん」に、実際手を下した、元兵士の証言は実に生々しい。

 日本が敗戦し、この14人を含む1109人の日本人が中華人民共和国の戦犯管理所に入った。収容所では厳しい処罰はなく人道的な処遇を受けた。彼らはそこで1度失った人間の心を取り戻し、自らが行った残虐行為を悔いる機会を与えられた。

 1956年中華人民共和国民法院特別軍事法廷で病死、自殺を除く1062人中45人のみが起訴され、残りの1017人は起訴免除、即時釈放された。日本へ帰ってきた彼らは「洗脳された人々」というレッテルを貼られた。今は平穏に暮らすが、証言することは止めない。

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 上映日程―△東京・渋谷区シアターイメージフォーラムにて01年12月1日より21日△大阪・西区シネ・ヌーヴォーにて02年1月26日より△京都みなみ会館にて02年2月より△愛知・名古屋市シネマスコーレにて02年1月26日より△北海道・札幌市で2002年新春公開。

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