メディア批評(9)―長沼石根

強引な論法と連鎖解釈

「米国の正義」押しつける報道


 アフガニスタンが崩壊の危機に瀕している。

 超大国の物量攻勢に、山の民は抗すべき方法がない。

 テロは許せない。だからといって、「報復攻撃」は許容されるのか。

 無辜(むこ)の民の命が、虫ケラの如く弄ばれる。それを「誤爆」のひと言で片づける「アメリカの正義」。メディアも「正義」の側に立って、それを伝えるだけ。ニューヨークの死にはあれ程饒舌だったのに。


 私たちは日々の報道にならされて、いつか加害者の視点に立っている。そして、何かの拍子に、アフガンについてまるで無知なことに気づかされる。例えば「土井たか子を支える会」の機関誌「梟」(ふくろう=23号)に載っている2人の論文は、その意味で示唆的である。

 アフガンで17年間、医療活動をしてきた、「ペシャワール会」の中村哲さんは言う。

 「カーブルはほとんど無医地区に近い」「流通の末端機構を握っているのはラクダの隊商」「世界で一番治安のいいところは…戦闘地域を除けば、何とアフガニスタン」

 また、ジャーナリストの松井やよりさんはマスコミのアフガン報道に触れて、「インターネット…は反戦ネットと言うくらい、反戦メッセージばっかりでしょう、世界中から。…それが全然主流マスコミに反映しないというこのギャップ」

 「NHKは戦争中の大本営放送の責任を忘れたのか…」

 彼らの指摘や怒りを聞いていると、やはりメディアの伝えるアフガン情報は相当ゆがんでいると思わざるを得ない。

 評論家の加藤周一さんが朝日新聞紙上で、「…どこに事件の主な責任があるのか。またたとえばビンラディン氏が首謀者であるという判断はどういう根拠があるのか。そういうことのすべては一般の市民にはわからない」(11月22日付)と疑問を投げかける。

 メディアとて同様で、だからこそいまだビンラディン「氏」と表記しているのだろうが、朝日の18日付紙面は、「タリバーンをテロリストと決めつけるのは飛躍がある。…強引な論法に見える。その論法を拡大すれば、タリバーンを支持するパシュトゥン民衆も『テロリストと同罪』という連鎖解釈が生まれる」と記者の署名原稿を載せている。 なんじゃこりゃ、それを承知での日々の報道か。


 アフガンに冬が迫る。朝鮮半島にも冷たい風が吹き始めた。私の頭から、北の食糧難への懸念が依然として消えない。

 世界食糧計画(WFP)から20万トンのコメ支援の要請を受けていた日本政府は、当面支援を見送ることになった。

 だけど、本当に米びつはカラなのだろうか。「いや、ないどころじゃない、お上はたらふく食べている、下々に行かないだけ」と遠くの他人が声を大にして言う。

 ドイツのNGOから「北」に派遣され、18カ月間医療支援活動に従事した末、国外追放になった医師、ノルベルト・フォラツェンさんである。食糧ばかりでないという彼は、「包帯もなければ、メスもない。無論、抗生物質はない。…点滴容器はビール瓶、安全カミソリがメス。盲腸手術も麻酔なしだ」(11月10日付朝日)という。

 事実とすれば、食糧支援だけでなく、医療支援も急務である。

 こういう寄稿文を見るたびに思うのだが、紙面を提供するメディアは、どこまで「発言」に責任をもつのだろうか。偶々私の知るところでいえば「よど号乗っ取り犯の娘たちはVIP待遇」(10月23日付日経)というのには異論がある。メディアは、フォラツェンさんの指摘をきちんと検証してほしい。

 そんな折、週刊誌「AERA」に、北「異例のツアー」に参加したというルポが載った(11月26日号)。

 食糧危機によく言及する媒体なので「新発見」があるかと思ったが、「将軍さまの北朝鮮縦断記」なるタイトルを見ただけで、こりゃだめだ、と思った。同業者として、ルポに予断や偏見がまじることまで否定しないが、はなからおちょくり調では、鼻白む。

 「『治外法権』のディスコ」「国営のパチンコ屋も」「列車にぶら下がる人々」といった見出しを拾うだけで取材意図が読めてしまうではないか。だから「日本人観光客に初めて開かれたという咸興」に行きながら、記述は「肥料工場の煙突から、毒々しい黄色い煙が噴き上がっていた」で終わり。この記者、ついこの間までの川崎や四日市も知らないのだろうか。

 大体、全ての記事に署名があるのに、ここだけ「北朝鮮取材班」としたのが解せない。自分が姿を隠して、「橋の向こうの人々(注・北を指す)が何を考えているのか、最後まで答えはでなかった」とはムシがいい。 すべては続編への布石と解釈しよう。

 11月9日、中断していた南北閣僚級会談が再開された。が、会期を2日間延長の末、またも「決裂」した。

 経緯を報ずる新聞はほとんどベタ扱い。アフガン報道に紙面を割かれたせいばかりではないだろう。メディアの熱も冷めている。

 「決裂」を報じる毎日が「朝鮮中央放送」の報道を主体に、また産経が「ソウルの情報関係筋」の話を交えて報じたのが目だった程度。合わせて双方の主張は分かったが、どこに本当の原因があったのか分からない。

 一方で、「北がテロ防止条約に署名したことに、米が『歓迎する』」(12月1日付朝日新聞)意向を示したり、北京で日朝の政府関係者が接触した(11月24日付各紙)りしている。朝鮮半島をめぐる動きは、ひとつひとつ個別に見ていては分からないことが多い。それぞれが連動しているのかいないのか、もっとワクを広げてとらえてほしい。


 冒頭、アフガン情勢を語る中で、朝日の「連鎖解釈」という言葉を引用した。それに関連して――、

 11月26日付の各紙は、アフガン後の米国がソマリアとフィリピンを標的にしているという米ニューズウィークの報道を伝えている。続いてブッシュ米大統領が、イラクの名もあげた。折も折、産経が前出のドイツ人医師の「韓国との国境付近で北朝鮮は大規模な軍事的準備を進めている」という発言を載せ、(11月19日付)、続いて「『北』の生物兵器  韓国内で警戒論」(同22日付)とするソウル特派員の記事に大きなスペースを割いた。

 産経らしい報道と笑ってはおれない。「連鎖解釈」はどこへでも飛び火する。
(ジャーナリスト)

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