対話を否定するブッシュ政権の対朝鮮強硬策

「反テロ」に潜む覇権主義


 タリバン政権の事実上の崩壊によりテロ報復戦争が新たな局面を迎える中、米国の朝鮮に対する強硬姿勢が目立つ。

 先月末、ブッシュ大統領はホワイトハウスで会見を行い、対アフガニスタン戦争後の朝鮮政策について「朝鮮は大量破壊兵器の開発に関する査察を受け入れ、他国への武器輸出を中断しなければならない」と述べた。

 朝鮮は「反テロ」を口実に政治、軍事的圧力を強めようとする米国のやり方を非難、今後、対決の激化が招くかもしれない不測の事態に警戒心を募らせている。テロ報復戦争勃発後、朝米は水面下で本格的な対話再開に向けた交渉を行っていたと伝えられた。朝鮮外務省スポークスマンはブッシュ発言と関連して談話を発表、米国の一方的な査察要求を一蹴し「対話を通じた問題解決は事実上、遠のいた」との見解を示した。

水面下の交渉

 ブッシュ政権が一連の朝米合意の再検討を公言したことで朝米対話は中断し長期にわたりこう着状態が続いていたが、同時多発テロという未ぞ有の事態は新たな政治情況をつくり出した。

 「9.11」直後、朝鮮は外務省スポークスマンの談話で事件に対する「遺憾の意」を表明、すべてのテロに反対するという立場を内外に示した。その内容は外交ルートを通じて米国側にも公式に伝えられた。11月には国際的な反テロ条約に署名、テロ根絶に向けた国際的協調に積極的に参加する姿勢をアピールした。

 米国側は朝鮮の反テロ条約署名を「歓迎」する意向を示した。議会の承認を受け本格的に活動を始めた米国の朝鮮政策担当チームは「ブッシュ大統領はクリントン政権時代の米朝交渉の成果を認識している」(プリチャード朝鮮半島平和会談担当特使)と発言するなど、対話再開問題を意識した行動を見せた。

 事実、10月中旬頃からニューヨークでは対話再開に向けた朝米間の接触が行われていた。

 朝鮮は国際情勢の変化に積極的に対応、テロ報復戦争が朝鮮半島情勢に及ぼす影響を最小限に止め、朝米対話再開の道筋をつけるための措置を講じてきた。

 問題はテロ報復戦争を決行した米国の姿勢。「9.11」以降、一部の外交筋には、米国がテロ包囲網の形成を外交目標に掲げ、朝鮮の参加を優先課題として捉えるならば、今回のテロ事件が朝米関係改善に有利に作用するという楽観的観測も流れた。

 しかし対イラク攻撃など戦争拡大の可能性が取りざたされている時期にブッシュ大統領は朝鮮の軍事的脅威を強調した。そして「テロリストをかくまう国だけでなくテロに利用される大量破壊兵器を開発、提供する国も責任を取らなければならない」との論理を展開した。

一方的な査察要求

 冷戦終結後、ソ連という敵国を失った米国はテロリズムを「新たな脅威」として位置付けた。「ならず者国家」を名指しで非難、世界各地に緊張状態をつくり出し自国の覇権を維持しようとした。

 クリントン政権の対朝鮮政策もそのような世界戦略の一環として進められたが、数年間にわたる交渉の末、朝米が関係正常化を確約した一連の合意文書を採択し反テロ共同宣言を発表するという結果に終わった。

 ブッシュ政権はその経緯を白紙に戻そうとした。「核、ミサイル、通常兵器」を対話の議題にすると一方的に主張、対決姿勢をあらわにした。朝鮮側はブッシュ政権が前政権末期の政策水準に立ち返ってこそ対話再開は可能との原則を繰り返し表明してきたが、ブッシュ政権はテロとの戦争という特殊な情況を利用し兵器開発に対する査察を要求、従来の主張を貫徹させる構えを見せている。

 米国の査察要求に対して朝鮮は「強盗の論理」、「対応策を講じる」と強いトーンで非難している。ブッシュ発言は、「反テロ」を旗印に米国が新たな覇権主義を追求しようとする限り、朝米対話の再開は期待できないとの否定的観測を広めた。

現実的な代案

 米国が朝鮮側と反テロで協力する方法について真剣に討議しようとするならば、「テロ支援国」の指定を解除することが先決であろう。朝鮮側はそれが対話再開に向けた米国の実践的措置になり得ると判断しているようだ。対話が始まれば、ミサイル問題など懸案解決のため決断を下す用意があるとの姿勢も間接的に示している。

 「9.11」が単独行動主義といわれた米国の外交路線に転機をもたらすものであるのか、展望はいまだ不透明である。米国務省は問題のブッシュ発言について後日、「いつ、どこでも朝鮮との対話に応じる」という既存の立場の変更を意味するのではないと釈明したが、朝鮮側の不信感を払拭するには至ってない。

 現時点でも米国側が対決姿勢の放棄を実践行動で示せば、朝米対話は再開されるであろう。しかしテロ報復戦争が「次の段階」へと移行する時期に米国が強硬策を表面化させれば、現在のこう着状態は長期化を避けられず、朝鮮半島情勢に新たな緊張をもたらす可能性もある。(金志永記者)

日本語版TOPページ

 

会談の関連記事