女のシネマ
少年義勇兵
知られざる歴史の青春群像
日本軍による真珠湾奇襲攻撃があった1941年12月8日。同日、タイ南部の沿岸に日本軍が侵攻。この侵攻に対して、タイ軍とともに闘った、当時14歳から17歳の8人の少年義勇兵がいた。史実をもとに描かれたセミドキュメンタリー構成の青春群像劇。
第2次大戦の暗雲垂れ込める1939年、国名をシャムからタイに変えた政府は、いち早く中立を宣言。外勢の侵略に備えて、少年義勇兵局の設置を決めた。 義勇兵局のダヴィン大尉が、志願兵を募るため、タイ南部のチュンポーンを訪れたのは1941年5月。町では外勢侵略の危機感が重く漂い、原地に溶け込んで暮らす日本人に警戒の色を隠さなかった。高校生マールットは、日本人の義兄と姉の3人暮らし。将来の夢や淡い恋に胸踊らせるくったくのない学校生活を送っていた。 ダヴィン大尉の救国演説につき動かされて、マールットら8人が志願。体育の授業のように始まった訓練も次第に厳しさを増す頃、他人事のように思ってきた戦争が真近に迫る。 12月8日、午前2時40分、チュンポーン沖に数十艘の軍艦が黒々と姿を表す。メインマストに日本の海軍旗。夜明けとともに交戦開始。時のタイ政府の「日本国軍隊のタイ国領域通過」承認による停戦命令が下るまでの5時間余、少年たちはタイ軍とともに闘い続ける。熾烈な接近戦でダヴィン大尉は戦死。 タイは、東南アジアで唯一植民地化を免れ、独立を守ったと言われるが、「欧米からの解放者」をうたった日本軍の侵攻によって、実質的に占領下にあったと言える。 危機にある国を思う気持ちは、家族愛や友情と深くつながっている。一途な若さを勇気に変え、死線をのり越えて闘ったその成長の証は、隊列を整えて帰ってゆく姿。責任感と誇りに満ちた姿に、タイの人々の凛(りん)とした気概がうかがえた。知られざる歴史の忘れてはならない記憶とともに。ユッタナー・ムクダーサニット監督。123分。タイ映画。(鈴) |