対談

母国とのつながりの中で子どものアイデンティティー守る

名古屋朝鮮初級学校校長
李章哲さん
エスコーラ・ドルモンド日本語教師
加藤千惠子さん

 在日同胞の誇り―日本各地に百数十校ある朝鮮学校が最多なのはもちろんだが、現在、その次に多い在日外国人学校がどこかご存知だろうか。答は、ブラジル人学校だ。ブラジル大使館によると、本国ブラジル教育省の認可を受けたものだけでも20校。申請中の6校や小規模の塾なども合わせると相当数に上るとみられている。愛知・小牧市にある「エスコーラ・ドルモンド」を名古屋初級の李章哲校長とともに訪ね、日本語を教える加藤千恵子先生に話を聞いた。昨年、市民団体が主催したシンポジウムで初めて出会って以降交流が始まり、加藤先生は名古屋初級の対外公開授業を参観した。李校長の訪問はその答礼でもある。

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 李章哲・名古屋初級校長(以下、李)  ドルモンドの設立経緯について聞かせてください。

 加藤千恵子・ドルモンド日本語教師(以下、加藤)  親たちの強い要望がありました。数年すればブラジルに帰るから、日本の学校で言葉を忘れてしまっては困るというものです。とくに帰国すると、そのポルトガル語のレベルによって編入する学年が決まるためです。

 日本の学校でいじめられたり言葉や文化の違いになじめず転校してくる子もたくさんいます。上を目指すにも、日本の受験戦争についていくのは大変です。現時点では、ブラジル人学校で本国の資格を取る方が現実的なのです。

 形態としては大きく3つに分けられます。ひとつはブラジル本国の学校法人が資本を投下し、系列校の形で進出してくるもの。次に日本人が資本を出して、会社のように立ち上げるもの。あとは私たちのように、当事者である日系ブラジル人が必要性を感じて立ち上がるケースです。

   朝鮮学校から学びたいことがあるとおっしゃっていましたが。

 加藤  まずは資格のことです。各種学校とはいえどうやって学校法人認可を受けたのか。次に教育内容。とくに私が日本語教師であることもありますが、日本語教育の内容や方法です。外国人に教える日本語とは違うし、かといって「国語」ではない、まったく新しいものだと思いました。

   日系ブラジル人の場合、今はほとんど渡日1世ですよね。われわれは今、3、4世の時代を迎えています。民族教育の歴史を重ねながら徐々に日本語の時間が増え、内容も洗練されてきました。一方、半世紀を経て、今では日系ブラジル人とは反対に子どもたちの第1言語は日本語。だからこそ、母国語である朝鮮語教育を重視しており、それがわれわれの民族教育の最大の意義でもあります。

 加藤  学校法人認可がなくて困るのは、やはり運営。税金なども割高です。しかし、まだまだ当事者の意識が低いのが現状です。日系ブラジル人社会を取りまく環境はいまだ流動的。先の見えないトンネルの中にいる感じで見通しが立たず、将来的な展望を持つのは難しいです。

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   昨年、わが校に来ていただいた時の印象は。

 加藤  涙が出て仕方ありませんでした。子どもたちが一生懸命な姿には胸を打たれます。あとやはり、日本に暮らしていく朝鮮人として母国と日本の両方のものを習得する教育が定着しているように感じました。

   私も今日、ドルモンドを拝見させていただいて、草創期の朝鮮学校を見ているようで涙が出ました。子どもたちは元気いっぱいでしたが、失礼ながら設備は十分でなく、先生方の苦労がしのばれます。

 加藤  校舎は倉庫だった建物です。ブラジル人には貸さないというケースも多く、探すのは本当に大変でした。交通も不便ですがやっとあそこを借りて、突貫工事で中を仕切って教室にしました。もちろんグラウンドもありません。

 こうした状況を改善するためにも学校法人にできないかということで市にも相談しましたが、行政の認識は日本に住む以上、日本に適応した教育を受けてほしいというもの。つまり、日本学校へ行けということです。それだけではだめだから学校を作ったのに…。

   朝鮮学校もこの半世紀、散々いじめられてきました。今、微々たるものですが自治体などから助成も受け、ある程度の権利も獲得しましたが、すべて在日同胞自らがたたかって勝ち取ってきたものです。今後、学校のみならず在日外国人の地位をいっそう向上させていくためには、私たちのようないわゆるオールドカマーと日系ブラジル人などのニューカマーが協力していくべきでしょう。

 加藤  在日朝鮮人と歴史的背景は違いますが、日系ブラジル人もその成り立ちからして日本の政策に左右されてきた存在です。それは今も続いており、例えばドルモンドの子どもたちはとても出入りが激しい。それは親がクビになったり授業料が払えなくなったりするからで、そこには日本の経済状況がそのまま反映されています。より条件のいい職を求めて移動する親に連れられてあちこちへ移動する子どもも多く、振り回されている子どもたちがふびんになります。

 しかし最近、子どもの教育優先で職場を検討する親も増えてきました。来日する前にブラジルから直接ドルモンドに連絡をくれ、場所などを確認したうえで職場を探すというケースもありました。

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   ブラジル人学校が増えてきた中で、新たな問題はほかにありますか。

 加藤  不就学の問題があります。日本の学校に適応できず、ブラジル人学校にも経済的な問題などにより通えず、どこにも行かない、行けない日系人の子がかなり増えていて、なかには非行に走る子も少なくありません。

 もうひとつ心配なのは、日本の学校で一生懸命に勉強した子はポルトガル語ができない子になってしまってブラジル人学校に来る。そして1年生から始めるのですがそうこうしているうちに14〜15歳になって働ける年齢になってしまうと、1人前だと錯覚して働きに出てしまう。結局、日本の義務教育も、ブラジルの義務教育も終えておらず中途半端なまま。そうした子が数は少ないにせよ増えつつあります。

   ブラジル教育省の認可を受けているということですが、本国の指導を受けているのですか。

 加藤  担当者が何度も来日し、視察しています。

   母国とつながりを持つことは大事だと思います。海外に住みながら、子どもたちのアイデンティティーをいかに守り育んでいくか。その点で私たちは仲間同士と言えるようです。これからも交流を深めていきましょう。

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