焼肉激戦区−繁盛店

新鮮、自然な素材が鉄則

岡山・倉敷、焼肉「十々」


家族連れで満席

 金善雄(53)、河万恵さん(53)夫婦が営む焼肉ハウス「十々」はJR倉敷駅から車で10分、旧国道2号線沿いにある。同線は「倉敷の動脈」と言われ、1日中車がひっきりなしに通る。道路沿いには外食店が点在しており、金さんの店の周辺にも2、3年前から焼肉のディスカウント店が建ち始めた。オープンして10年目。おもな客層は家族連れ、カップル、さまざまなグループだ。

 牛肉関連全般に深刻な影響を与えているBSE(狂牛病)騒動で金さんの店も客足が鈍ったが、日本政府の安全宣言発表(10月18日)後の10月末から徐々に回復し始めた。

 「マスコミの過剰な報道の中でも足を運んでくれたのは、やはりこの店の料理が食べたいという常連さんだった。味を裏切らないという信頼関係を築くことが大事だとつくづく感じました」(河さん)。大変な時こそ原点に立つことの大切さを実感している。

 金さんが焼肉を始めたのは10年前。以前は喫茶店を営んでいたが、商売に本腰を入れようと焼肉に転業。特別なノウハウはまったく持っていなかった。

 オープン当初は空席も目立ったが、5年ほど前から軌道に乗り始めた。日曜は60ある席が満席になるという。評判が広がったのは、肉、タレ、キムチなど朝鮮料理の味を徹底的に追求した結果だ。

とろける特上塩ヒレ

 まずは肉。すべて(内臓を除く)生産業者の直送だ。九州産の和牛を使用しているが、金さんが8年かけてやっと探し出したものだ。

 オープン当初から肉の小売業者とは7、8店取り引きをしているが、思うような肉にはなかなか出会えなかった。

 そこで、商品を「見る目」を養い、納得する商品に出会った時には生産農家に直接問い合わせ、「個人の焼肉業者には卸さない」というところを何度も懇願して取り寄せることに成功。いいものを確実に仕入れるルートを確保した。

 中でも、1番の人気商品は特上塩ヒレ(1600円)。厚さ5センチほどの肉を一口サイズに切ったもので、とろけるように柔らかい。和食の板前や洋食のシェフら、プロの料理人もわざわざ食べに来る「絶品」だ。

 特上ハラミ(1000円)、特上ロース(1600円)もオーダーが多いという。カルビ(600円)、ロース(850円)、ハラミ(1000円)も質を保ちながらも価格を抑えている。

 ほかにもホルモン、レバー、センマイなどは、新鮮さに定評のある業者からその日さばいたものを仕入れている。

 タレの研究にも徹底して取り組んだ。「研究に研究を重ね時間もかけた。しかし、結局たどり着いたのは簡単なことでした」と金さん。

 行き着いたのは基本的な材料を使ったシンプルな作り方だったという。

 同店のタレは皿の底が見えるほど透き通っている。さっぱりとして肉そのものの美味しさが損なわれない。後味がなくさっぱりしており、まろやかで自然な食感だ。

 金さんはタレのできを確かめるため、客の表情をつぶさに見て反応を探った。「人間、食べる時ほど、表情が正直になるからだ」。

 タレやコチュジャンなど化学調味料は一切使わない。キムチも水々しい。材料の野菜は市場に足を運んで季節ごとに新鮮なものを取り寄せ、米も新米を使う。自然で新鮮な素材が鉄則だ。

焼肉協議会役員も

 岡山は全国有数の焼肉激戦区だ。競合店の進出に長引く不況もあいまって、同胞業者は苦戦を強いられている。そこで岡山県商工会は5月に「岡山焼肉協議会」(辛善洙会長)を発足させ、同胞業者の団結した力と知恵を集め、現状を打開することにした。

 金さんも協議会の役員として名を連ね、会合には欠かさず顔を出している。

 「参加するメンバーは繁盛店の店主が多い。客が入っている所は努力をしている。他人の話を聞くと参考になるし、自分のやり方を反省する場にもなる。もちろんヒントもわく」

 BSE騒動にも、手を取り合って対処している。16日には、商品半額などの特典を付けた同胞焼肉店の名を連ねた1面広告を地元紙に掲載する。スケールメリットを生かし、土日(17、18日)の集客をねらう。

 「焼肉商売は1世がわれわれに残してくれた生活の糧。1世の味に誰よりも詳しいわれわれが、みすみす手放すことはしない。悲観はしていません」(張慧純記者)

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