混迷の日本経済診断〈3〉

雇用問題の深刻化、希望就職という名の解雇

リストラ前面に統廃合、国内外移転


 完全雇用理論のケインジアンも驚く初の最悪失業率5%台。330万人を超える完全失業者、失業率5%が7月、8月と2ヵ月続いた。「大量失業者時代」、「絶えずありえる失業時代」の到来である。

 失業とは「働く意思と能力を有しながら職につくことができない状態」を言う。その数は30日以上賃金をもらう事ができず職業安定所に仕事を探しに来た人(労働力調査規定)の数である。だとすると失業状態にある人口は330万人の失業者数をはるかに上回った数になると考えられる。

 今、日本の労働市場では求職と求人のミスマッチで困難な再就職、フリーターに代表される就業なのか失業なのかあいまいな状態、それに従来の退職とは違う新しい形態などが現れている。

 デフレ経済で徹底的な資本効率の向上や人件費の削減、圧縮を余儀なくされている企業によって「聖域」なき「希望退職という名の解雇」が実行されている。

 戦後日本において失業問題はレギュラー、定番であった。景気が悪くなり企業が過剰生産、過剰在庫を抱え減産したり倒産すると必ず失業者が出る。今までは終身雇用、年功序列など「日本的雇用慣行」にならい、「解雇」を堂々とできなかったばかりか、不況産業、業種がはっきりしており失業年齢も限られていた。しかし、バブル経済が崩壊し不良債権の処理が先送りされるなど複合的に要因が重なったための長期不況。失業問題は雇用問題と絡んで複雑な様相を呈している。

会社の将来に不安

 この一年間で、建設業で21万人、製造業で58万人が離職した。IT関連産業では8万人のリストラ計画を発表している。これは厳しい経営環境下で人件費の抑制を迫られた企業が、リストラを前面に押し出し統廃合、国内外移転を打ち出して「早期希望退職」を強要したものである。

 マツダ、三菱自動車、いすゞ自動車、雪印乳業、松下電器など、早期希望退職を募集する企業は後を絶たない。

 最近は募集予定を上回る希望が殺到していると言う。だが、その理由は「会社の将来が不安。やめるなら今のうち」、「定年まで働くつもりだったが、退職金の割増制度の説明を受けるうちに考えが変わった」と言うように、将来の不安と優遇制度を利用してのことだ。新たな仕事へのチャレンジ、やむを得ずなどの理由付けをする退職者もいるが、やはり企業側の「希望退職という名の肩たたき」の圧力によるものと考えられる。

 マツダでは今年の3月、1800人の退職募集数を大幅に上回る2200人の退職希望者が出たという。実際、希望退職の募集があるまで退職を考えていなかった人が6割を超えている。(野村総合研究所の調査)

 情報技術連合企業を中心にこれまで各地の雇用を支えてきた企業がIT不況で製造拠点の移転、統合などの再編を行い、これが全国的に雇用を直撃している。工場の再編は、人員の配置転換では対応できないことを理由に堂々とリストラ策をとっている。

 岩手のアイワは来春3月まで全工場を閉鎖し、約500人を解雇する。フイリップス・コンポーネンツ米子は液晶表示装置製造工場の海外移転に伴い工場を閉鎖し130人を解雇する。日本ビクター伊勢崎工場では210人の従業員に配置転換勧告が出されたが、140人は早期退職した。ダイハツ車体の前橋工場の大分県中津への移転計画に伴い1000人が配置転換、NEC山形工場では工場統合で360人が移動・出向、キッツ諏訪工場は山梨に工場移転し80人に配置転換勧告が出されたが、ほとんどが退職している。

 企業の海外シフト傾向が強くなりリストラが一段と強まると考えられる。

転職せずに退職

 7月の失業統計を見てもわかるように、45歳以上の男性失業率は女性を上回っており、55歳〜64歳の男性失業率はそれまでの3%台から6.6%へと一気に上昇している。にもかかわらず中高年男性の再就業環境にはかなり厳しいものがある。年齢制限と給与減少、環境の不慣れが主な要因だ。

 豊富な経験を持っていても、45歳以上になると極端に求人が減っているのが現状である。経験が年齢差を破れないということだ。

 今年3月に閉鎖した日産自動車村山工場の場合、再就職しても生活圏が変わり、給与の手取りは半分近くに減るという事から、2000人いた従業員のうち470人にのぼる社員が転職せず退職した。政府が「緊急雇用安定地域」を指定し、企業への雇用助成金や失業給付期間を延長する対策を取っても、「ハローワーク」で就職先を決める人は少ないという。

 マツダの2200人の希望退職者中、再就職率は25%以下だそうだ。これは求職と求人のミスマッチによるものである。10月の法改正で年齢制限を廃止するよう企業側に努力義務を課すことになるが、効果は未知数といえる。

失業の若年化傾向

 7月の330万人の完全失業者を年齢別に分析すると、15〜34歳が162万人と全体の半分弱を占める。高校や大学を卒業しても人生の展望が見えず就職しない人や、「勤務先が自分に合わない」と判断して離職した人が大半だという。

 特に10代、20代の時にはきちんとした職業訓練が必要であるにもかかわらず、15〜24歳の失業率は9.4%と最も高い水準だ。中でも男性は10.3%と2ケタ台にはねあがっており、フリーター、パート傾向の増加により就業と失業の境界線をあいまいなものにしている。長期不況の影響もあるが、若年層の就業観点が変わってきたことも理由の1つに数えられる。

 失業率もさることながら、失業者の若年化傾向に拍車がかかっている。労働者は職を通じて技能を高める。技術と技能を結びつける若人が途切れると、物作りの大事な基盤がなくなるか弱くなる。当然、競争力を低下させ、社会経済の活力を喪失させることになる。しかも製造業の海外シフトが増えると国内の雇用機会が減少するばかりか、競争力が一段と低下することになる。

 政府は緊急に規制改革と雇用創出、雇用のミスマッチ解消、安全網整備などを基本にした「総合雇用対策」を発表したが、どれも疑問視されている。

 離職者が引き続き増大し、新規も中途も就職難の時期が当分続きそうだ。今こそ同胞ネットワークを利用することで雇用、就職受難の時期を乗り越えたいものだ。(ユン・ピルソク、朝鮮大学校経営学部長)

主な民間調査機関の失業予測率

  2001年 2002年
BNPパリバ証券 5.5 6.2
第一生命経済研究所 5.3 6.2
三菱総合研究所 5.2 5.6
日本経済研究センター 5.2 5.6
三和総合研究所 5.2 5.5
野村総合研究所 5.0 5.4

日本語版TOPページ

 

会談の関連記事