こども昔話
ねずみの婿さま
李慶子
むかし、ある村にたいそう器量の良い三人娘がいたそうな。娘の家は貧乏で、嫁入り支度どころか、あしたの米もないありさま。そこで両親は三本のきぬたを娘たちにわたして、
「財産はこれっきり。これをもって婿さまをみつけておいで」 と、送り出した。 ところが村を出てすぐ、 「長者さまの嫁になるんだから、きぬたなんていらない」 と、上の娘と中の娘は小川に投げすてたけれど、末の娘は両親だと思って、大切にふところにしまった。 桂の木の下に来たとき上の娘が西へいくと言いだして、中の娘までが南へと言い出したので、末の娘も五年後に両親のまつ家で会う約束をして、東へ行くことにしたって。 上の娘が進んだ道には白いそばの花が咲いていてねぇ。娘は粉屋の嫁になった。 中の娘の進んだ道には蚕を飼う屋敷があって、娘は生糸売りの嫁になった。 末の娘が選んだ道は石ころだらけの山の道。歩き疲れて倒れた娘が目をさますと、りっぱな部屋で絹の布団にくるまれていた。 「お腹がすいたわ」 ぷち、と娘がつぶやくとねずみがごちそうを運んできた。なんとなんと、そこはねずみのお城。娘はねずみのお妃になった。 約束の5年がきて、里帰りするという娘に婿さまは、 ぺったらぺったら そば餅ぺったら と餅をつき、 コトコト、カッタン コトリ、カッタン と金糸銀糸で布を織り、持たせてくれた。 さて家では姉さんたちがやっぱりみやげのそば餅と絹織物を前にして、婿自慢をたらたら言いながら、末娘をまっていた。ところが、末娘のみやげがあんまり見事で、くやしいくやしいって腰をぬかしてねぇ。 「婿さまはどんな人だい」 「つれておいで」 と、いったって。 ねずみが婿さまだなんてとても言えず、しおしおと城にもどった末娘は、しかたなく婿さまを家につれていくことにした。 小さなかごにのり、大勢のねずみを従えて笑顔をみせる婿さまの後ろを、娘は重い足を引きずり引きずり、ついていった。 小川にさしかかったとき先頭のねずみが小石につまずいてねぇ。かごをかついだねずみも婿さまも、ぽしゃぽしゃ小川に落ちたって。 やれたいへん、とばかり追いかけたけれど、婿さまは影も形もなく、着物だけが水草に引っかかっていた。その着物は娘が婿さまのために縫ったもの。夢中で拾い上げ、泣きながらトントンきぬたを打った。 すると水の中から金の冠をかぶった王さまが現れてねぇ。 娘の打つきぬたの音が天にとどき、ねずみの婿さまは人間に生まれかわったそうな。 りっぱなかごにのり、家来を従えてやってくる末娘夫婦をみた姉さんたちは、なんともかんとも、口をあんぐりあけてやっぱり腰をぬかしたって。 ◇ ◇ 口承で発展した昔話は男女の語り部によって、内容が区別された。男は伝説、野談または信仰性の濃い人生と死をテーマにしたもの。女は動物昔話、継子談、天人女房系といった具合に。 とくに女子は嫁に行くまでアンパンと呼ばれる奥部屋で母と過ごし、教訓的な話を聞かされることが多かった。 |