現場から−卞在俊(朝鮮大学校理工学部長・61)
誇らしい卒業生の活躍
科学者には民族がある
先日、朝鮮大学校理工学部の卒業生が一度に4人も日本の国立大学大学院に合格した。そのうちの2人は、これまで朝大卒業生に固く門戸を閉ざしてきた東京大学の大学院だ。
長い間の働きかけの結果として得た受験資格ではあったが、実際に受験して合格しなければ意味がない。その点、今回初めての挑戦で、しかも2人が受けて2人とも合格したのだから、彼らを送り出した者の1人として、喜ばしく、誇らしい限りである。 朝大理工学部(以前は理学部、工学部の2つだった)の卒業生たちは、さまざまな分野で活躍している。同胞企業はもちろん、日本の企業に入って技術者として活躍したり、自分で、または卒業生同士が共に起業することもある。 一方、先に紹介した今年の卒業生4人のように、日本の大学の大学院に進学して科学者としての道を歩む者も少なくない。日本の国立大学をはじめ公立、私立の大学や研究所に採用され、教べんをとったり、研究活動をしている卒業生も増えてきている。 さまざまな分野で活躍する卒業生たちを送り出してきた立場として、思うことがいくつかある。 ひとつは、とくに日本の大学院に進学した卒業生たちが研究室の指導教官にとてもかわいがられるということについてである。研究者の卵である大学院生が指導教官にかわいがられるには、もちろん彼らに資質が備わっていることが大前提であろう。それ以外に私なりに思うことは、彼らが大学時代に経験した集団生活の過程で培われた協調性も大きな要素となっているのではないだろうか。 科学が高度に発達したこんにち、一つのテーマをグループの力で押し進めていく傾向はますます強くなっており、協調性は研究者が研究を進めて行くうえで非常に重要な要素となっている。その点、朝大の卒業生は大学時代に日本の大学では経験できない集団生活、組織生活を通して人とどのように接し行動すべきかを学んでおり、それが土台になっているのではと思う。 次に思うことは、科学、技術の分野に進んだ卒業生のほとんどが在日朝鮮人科学技術協会の会員として、さらにはその中核として活躍していることである。 同協会は、日本に住む朝鮮の科学者、技術者および生産業者を網羅した学術団体で、祖国の科学技術、経済の発展などに寄与してきた。そこで、朝大理工学部卒業生の存在がますます大きくなっている。これは、彼らが自分の人生を祖国、民族と結びつけて考え、生きていこうとしている何よりの証であろう。 実際にこれまで多くの卒業生がいろいろな形で祖国の科学技術、経済発展に寄与してきた。「科学には国境はないが科学者には民族がある」という言葉がある。この言葉に込められた精神が、朝大の教育の中に一貫して貫かれていると言えよう。 最後は、日本各地の朝鮮学校で次代を担う若い世代の教育に携わっている卒業生たちのことだ。在日朝鮮人運動の中で教育事業の必要性、重要性はまことに大きい。この教育事業を途切れることなく引き継いできたのは、まぎれもなく朝大卒業生たちだ。 このように理工学部卒業生がさまざまな分野で活躍する現実を見る時、朝大の教育水準がかなりのレベルにあることがわかると思うし、人間形成という面から見てもその教育内容が充実したものであると言えよう。問題は大学入学後、本人がいかに目的意識を持って努力するかである。 大学で教べんをとる者にとって、社会に出て活躍する卒業生の様子を見たり聞いたりすることほどうれしいことはない。朝大という海外に一つしかない同胞の高等教育の場で、これからも微力ながら全力を |