閑話休題

記憶の再生

ともに学び、成長する過程


 「記憶」について、済州島4.3事件をテーマに多くの作品を発表している作家の金石範氏はこう述べている。

 「強いられた沈黙は、忘却と同じ。何十年たっても化石みたいになった記憶を意識化することで、人間の魂は解放されるのです」

 記者として言葉を紡ぐ仕事をして、私自身も25年以上の歳月が過ぎた。しかし、ものを書く重みに気づかされたのは、この数年のこと。ひとつは日本軍の性奴隷を強要されたハルモニたちの存在を知ってから。国家の戦争犯罪を否定しようとする日本政府。さらに被害者らは、「汚れた女」のらく印を押し続けた儒教社会の偏見とも闘わねばならなかった。

 おし殺された記憶を再生するための長い歳月。その間、アジア各国の女性たちは、半世紀の沈黙を破って溢れ出るハルモニたちの証言を受け止め、支えた。歴史の真実からよりよい生き方を学ぼうとする真しな姿がそこにあった。

 先日、多磨全生園で開かれた元ハンセン病患者の李乙順さん(77)の「私の歩んだ道」の出版を祝う会を取材した。植民地支配、女性、ハンセン病という三重の苦しみをおわされ、苦しみのどん底から不屈の精神で蘇った李さん。その心をいやし、苦しみを理解したのが、聞き書きを担当した桂川潤さんだった。

 李さんの記憶を再生していった2人の共同作業。桂川さんの恩師の山田昭次立教大元教授は、それを「共に学び、共に成長する過程だった」と称える。深みのある言葉だと思った。(粉)

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