現場から−金正泰(京都朝鮮中高級学校教員・33)
「人」が作る情報化社会
つねに難関に立ち向かい
京都朝鮮中高級学校で学校の情報化、そして情報の授業を担当するようになって3年半になります。
赴任した頃は、閉ざされたコンピューター室のネットワーク(LAN)構築から始めました。当時、京都朝鮮中高級学校にはコンピューター室に20台のパソコンがあり、1台のサーバーを中心にネットワークでつながっていました。設備はしっかりしていましたが、それが正常に稼動していませんでした。 まずコンピューター室のパソコンの整備から始め、いろいろなところからパソコンをもらってきてはネットワークを拡張していきました。今では100台以上のコンピューターが学校のあらゆるところで稼動し、すべてがLAN、インターネットに接続されています。つい最近、インターネットへの接続回線を64K専用線から高速ISDN2回線に変更しました。それにともない、生徒用のネットワークと教職員用のネットワークを完全に分離しました。 情報化担当教員として、みんなが使いやすい環境をつねに目指していますが、技術の進歩と低価格化が日々進むIT社会の中で「ベストの環境」となると、いつまでたっても仕事が終わりません。 こんなことを繰り返しながら、いつも思うことがあります。それは、パソコンもインターネットも情報もあくまでも「人」が扱うということです。 いくらよい設備があっても、使う側の準備ができていないとよい環境とは言えません。以前のわが校のように使いこなせない場合もあれば、誤った使い方をしたり悪用する人も現れます。最近、ネットワークや携帯電話を使った犯罪やトラブルが多発していますが、こういうところに問題があるのではないでしょうか。 情報化社会と言われるようになって久しいですが、技術の進歩に人の「心の準備」が追いついていないのが現状です。一部の専門家や技術者の努力だけで真の情報化社会は実現できません。人が社会を作るのです。人がどのような考えを持ち、どのような能力を持ち、どのように活用するのかで社会は変わってくるのです。 ◇ ◇ 近年、「同胞社会の情報化」「同胞のネットワーク」とよく言いますが、インターネットという強力な道具を利用して、いかに人と人のつながりを深めていくかが鍵となります。そのためには利用者がこの道具の使い方を正確に把握し、長所と短所を理解しなければなりません。その意味で今後、学校が果たすべき役割は重大です。私自身、学校の情報化を担当していますが、パソコンやネットワークの整備と管理だけでは不十分だと思っています。 まず、使いやすい利用形態(システム)と規則を作って利用者(先生や生徒)に理解してもらわなければなりません。また利用者のスキルアップの場や情報活用の場を作る必要もあります。さらにモラルの問題や情報に対する考え方を育成する問題など、総合的に環境を整えていかなければ学校の情報化は実現しません。 また学校の情報科目の授業は、このような人材育成につながるものにしなければなりません。私は中・高での情報科目は、そこで学んだことをほかの科目の学習に利用したり、生徒たちの情報収集や情報発信、コミュニケーションなどに活用されてこそ意味があると思っています。「同胞社会の情報化」「同胞のネットワーク」も、その延長線上にあるのではないでしょうか。 朝鮮学校が情報教育に本格的に取り組むようになって今年で8年目です。最初の頃はコンピューター室を設けるのがやっとで、情報科目でもパソコンの使い方を教えるのに精一杯でした。地域や学校間での格差も大きく、各級学校間のつながりも弱いものでした。 しかしここ数年、各校間の格差は小さくなり、情報担当教員間の日々のコミュニケーション、協力体制も整いました。毎年、朝鮮大学校が中心になって情報担当教員の講習も行われています。インターネットという道具を利用して、朝鮮学校の情報担当教員たちの「ネットワーク」は確実に「人と人のつながり」に発展してきたと自負しています。 まだまだ足りない面も多くありますが、全国の教育現場では少しでも教育の質を高めようとつねに難関に立ち向かっています。朝鮮学校が情報教育に取り組んで10年になる2年後までには、何らかの形を残せるようにしたいと思っています。 |