それぞれの四季
正義の仮面
金春正
9月11日の台風一過の空に大きな、大きな虹を見た。
50数年生きてきた中で初めて見る大きな虹だった。だいだい色に染まった不気味な灰色の雲のずっと奥に真っ青な空が広がっていて、大雨洪水と強風の恐怖にかられていた数時間前の自分がとてもちっぽけな存在に思えた。 見ようと見えまいと宇宙の彼方にはいつでも青空が広がっていて、本当に大事なことはいつでも見えないかも知れないが、眼の前に繰り広げられる現実に惑わされることなく本質を見る眼をしっかり持つことの大切さを痛感した。 その夜、米国で起きた同時多発テロの惨劇、まるで映画のワンシーンを見ている様な信じられない光景がテレビの画面に映しだされた。人命を無差別に奪うテロはいかなる理由や背景があろうとも絶対に許されない卑劣な犯罪行為である。だが、明確な証拠もないのに「犯人」を特定し、「正義」が「悪」を糾弾する「報復戦争」を公然と準備している様は、帝国主義者たちの戦争が、正義の仮面をかぶりゆく過程を検証している様な怒りを覚えている。朝鮮戦争しかりベトナム戦争しかりである。 20世紀は戦争と殺りくの時代だった。そして、人類が戦争のない平和で豊かに暮らせる21世紀にしようと希望に満ちた出発をしたのはほんの少し前だった。 人類の高度な学習能力を生かして軍事力による報復は新たなる憎しみと悲しみを呼ぶだけだと肝に命じて、今回の惨事を、21世紀を戦争と憎しみの世紀にする引き金にしてはならない。(生涯学習振興公社非常勤職員) |