米以外でほとんど通用

自分を保護、ビザ取得簡素化


海外渡航には朝鮮の旅券、
再入国許可書両方が必要だ


 最近は、在日同胞も海外に出る人がぐんと増えた。目的は旅行、留学、会社の出張など様々だ。だが、これまで同胞たちの間では朝鮮の旅券を持って、海外に出るという認識があまり持たれて来なかった。だが最近は、旅券を持っていなければ、ビザを発給しない国もあり、券持参は不可欠になってきた。昨年朝鮮の旅券を持って海外に出た同胞の体験談などを取材した。(金美嶺記者)

朝鮮籍同胞も旅券を
各地の同胞生活相談綜合センターで受け付け

 在日同胞は、「入管特例法」による「特別永住者」または、「出入国管理および難民認定法」に基づく「永住者」としての在留資格を持っているため、日本に滞在している間は、旅券を持参しなくても暮らせるし、また、日常生活で旅券の提示を求められることもない。(外国人登録の常時携帯、提示義務がある)

 だが、ひとたび海外に出ればそうはいかない。

 自分の身分を証明するのは、外国人登録証でも再入国許可書でもない。自国の旅券となる。これを持参して海外に出てこそ、トラブルに巻き込まれた時、自国の外交的保護を受けることになる。

 朝鮮旅券は、朝鮮外務省の委任を受けて朝鮮総聯中央が発給する。

 朝鮮民主主義人民共和国は世界148国(20日現在)と国交を結んでいるが、その数は今後もさらに増えそうだ。

 まず、昨年1月のイタリアとの国交正常化に続いて、イギリス、オランダなど欧州諸国(EU)と次々と国交を結び、ベルギー、スペイン、ドイツ、フランスとも修交交渉中であるとのことで、朝鮮とEU15ヵ国全てが国交を結ぶのも時間の問題とされている。

 また、G7(主要7ヵ国)対象国中、カナダは昨年朝鮮を国家承認したし、後は米国、日本が残るだけだ。

 在日同胞にとってこうした動きは、海外渡航手続きの簡素化や、出かける国に朝鮮の大使館、領事館ができることで、旅券の認知度が高まり、トラブル回避と身辺安全性につながっている。

 これについて在日同胞の海外渡航を扱ってきた中外旅行社(東京・台東区)の張大仁さん(26)は、「ヨーロッパなどは、以前なら朝鮮籍の同胞はビザの発給に3ヵ月くらい待たされることも少なくなかった。それが、最近の動きによって大使館への本人出頭もなくなってきているし、簡素化は今後もさらに進むはずだ」と話す。そして、手続きをする際には再入国許可書とともに、旅券をきちんと準備してほしいとアドバイスする。

 朝鮮旅券の申請は、各同胞生活相談綜合センター(本部、支部も可)で受け付けており、昨年は600冊も発給された。期間は1週間から3週間ほどで作ってもらえる。

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 【注】シェンゲン条約 フランス、ドイツ、イタリア、オーストリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、スペイン、ポルトガルが加盟しており、これら加盟国のうち1つの国のビザを取得すれば全ての国の出入りが自由となる。ビザの申請には旅券が必要で、再入国許可書では取れない。1995年3月から実施された。

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同胞の体験談

マレーシアでトラブル 身分証明書で大事に至らず

崔光淑さん(京都府在住=41)

   今から16年前、新婚旅行でハワイへ行った時は、再入国許可書しかなかった。今回、マレーシアへは、総聯京都府本部に朝鮮旅券を申請して行った。

 滞在中、ちょっとした事件に巻き込まれそうになった。友人とタクシーをチャーターして街を回っていると、交通違反を理由に現地の警察に呼び止められたのだ。

 警察は、後ろに乗車している私たちに旅券の提示を求めた。ホテルに置いてあると答えると、持ってくるよう指示され、宿泊のホテルまで取りに行き、旅券を見せると、それ以上、何も言わず帰って行った。

 後でふり返ってみて、もし旅券を持っていなかったら拘留などの口実を与えていたかもしれない、と思った。もちろん、きちんとしたホテルに宿泊していることなども身分を証明する手立てではあるが、あの時、自分は何者なのかを証明する大事な役割を果たしてくれたのがやはり旅券だった。

 海外に出る機会が在日同胞も増えていると聞いている。それと比例して、同胞も同じようにトラブルに巻き込まれる可能性も高くなる。だからこそ、国際的にきちんと身分を証明できるものを持つ感覚を身に付けておくべきだと実感した。私たちは難民ではないのだ。

スペインでの税関通過 海外公民の待遇実感

梁明順さん(神奈川県在住=27)

 海外旅行は初めてだった。昨年11月中旬に、神奈川県本部で朝鮮の旅券を申請したところ、1週間ほどで取りに来るようにとの連絡を受けた。申請する前は、なんとなく面倒だと思い込んでいたが、1週間もかからなかった。その後、ビザの申請もすんなりと行った。

 行く先はスペイン。ここは、シェンゲン条約(注)加盟国なので、再入国許可書ではシェンゲンビザを取れないので、旅券が必要との説明を受けた。最初は腑に落ちなかったが、入国する際、持ってきて良かったとつくづく実感した。友人からは再入国許可書で海外に出て、税関を通過する際、呼び止められたとか、他の人の何倍も時間がかかったなどという話を聞いた。

 でも、旅券を持っていたから他の旅行客同様、税関をすんなり通過できた。

 在日同胞は、再入国許可書になれているが、実際海外に出る時に旅券を持つのは常識だ。

 日本にいる時は、さほど感じなかった、朝鮮の海外公民の意味について日本を出て、実感できたように思えた。何に守られているのか、何を持って自分を証明するのかといった今まで問いかけもしなかった漠然とした問題が、すべて明りょうになったような気がした。

 旅券を持ったことで、国際的にも朝鮮の海外公民として認められたような気がした。

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