ブッシュ新政権と朝米関係
前政権の政策「批判的に継承」
TMD推進 不安要因に
ジョージ・W・ブッシュ氏が20日、第43代米大統領に就任した。米民主党から共和党への8年ぶりの政権交代となる。気になるのは、ブッシュ新政権の対朝鮮政策の行方だが、結論から言うと、多少の時間的ズレはあっても、クリントン政権の政策を踏襲するものと考えられる。しかし、一方でブッシュ政権の「タカ派」的性格が、朝鮮半島情勢の緊張を招来する可能性も否定できない。
短期的には緊張の様相も 国務長官に指名されたパウエル氏は17日、米上院外交委公聴会で、対朝鮮政策にその基本姿勢として、「@ミサイルの開発と輸出、韓国の脅威となっている戦力配備の問題が根本的に改善しない限り、人道的な食糧支援以外の見返りは与えないAクリントン政権の関与政策を続けることに問題はないが、性急な関係正常化には走らないB日本や韓国との協議を重視し、現実的かつ非常に慎重に対応する」(朝日新聞18日付夕刊)と述べた。 クリントン政権の対朝鮮政策を批判的に継承し、朝鮮との交渉では安易に妥協しないと言うことだ。 ブッシュ大統領は、外交問題に「精通していない」と言われているので、パウエル国務長官が明らかにした基本姿勢は、そのままブッシュ政権の対朝鮮政策になるものと思われる。 前政権の政策を批判的に継承するという点では、クリントン政権も同じだった。明治学院大学の浅井基文教授(国際政治)によると、冷戦終結後、先のブッシュ政権は、ソ連に代わる脅威として「西欧、南西アジア、東アジアにおける脅威」を掲げ、それらの脅威から米国の国益を守るために、同盟国への負担分担、大国強調システムと国連利用という世界戦略を策定した。それを基本的に受け継いだクリントン政権は、そこに「ならず者国家」という新しい要素を付け加え、その要素を全面に押し出すようになった。 朝鮮政策でもクリントン政権が94年に朝鮮と交わした基本合意文は、ブッシュ政権の対朝鮮政策の延長線にある。92年1月にニューヨークで行われた朝鮮労働党の金容淳書記とアーノルド・カンター米国務次官との会談が、一連の朝米関係改善への出発点となっているのだ。 ◇ ◇ 核兵器とミサイルなどの大量破壊兵器の拡散防止というのは、冷戦終結後、米国の世界戦略の基本となっており、これは政権が交代したからといって変わるものではない。 米国が朝鮮の「核疑惑」に過敏になる最大の理由は、日本の核武装を誘発することにある。インド、パキスタンの核開発競争でも明らかなように、朝鮮の「核疑惑」は日本の核武装のかっこうの口実となりうる。経済的に米国に対抗しうる力を持っている日本が核を所有するということは、米国に対して「ノーと言える」ようになることを意味する。これは米国にとって最悪の事態となり、絶対に避けなければならない。 かといって、軍事的手段で朝鮮の「核疑惑」を封じるのは困難を極める。これは、94年の核危機のときに実証済みで、一昨年9月に提出されたペリー報告書(包括的対朝鮮政策)は、まさにこうした状況を分析したうえで出された結論だ。 ◇ ◇ クリントン政権とブッシュ新政権との外交安保政策における最大の違いは、TMD(戦域ミサイル防衛システム)に対するアプローチで、クリントン政権が縮小へ動いていたのに対してブッシュ新政権は、積極的推進を表明している。 しかし、TMD構想は、技術的にもメドが立っておらず、天文学的な資金を必要とし、現実問題として実戦配備は無理だと指摘されている。かつてレーガン政権が発表した「スターウォーズ計画」がとん挫したように、TMD構想もいずれ大幅な修正か廃止を余儀なくされるだろう。 問題は、朝鮮の「ミサイル開発」が、TMD構想実現の口実にされていること。この点で朝鮮半島の緊張が高まる可能性は十分にある。 以上を総合すると、ブッシュ新政権の対朝鮮政策は、基本的にはクリントン政権の政策=朝鮮との関係改善へと進むが、短期的に停滞することもありうると言えることができる。 要は、ブッシュ新政権が、クリントン政権時代の教訓をいかに速やかに汲み取るかということにかかっている。 ちなみに昨年10月に発表された朝米共同コミュニケには、固有名詞は使わず「大統領の(朝鮮)訪問」となっており、すなわちブッシュ大統領訪朝の道が残っていることを示している。(元英哲記者) |