労働省の「雇用助成金」制度
創業・異業種参入を補助
「新たに事業を始めたい」「今、行っている事業以外の分野に進出したい」||。そんな中小企業経営者に朗報となっているのが、新たに従業員を雇う際に国から助成を受けられる制度「中小企業雇用創出人材確保助成金」(以下、雇用助成金)である。労働省が昨年1月から実施しているもので、申請件数は現在も右肩上がりを続けている。国籍や業種などの制限がなく、一定の条件を満たせば誰でも利用できるとあって、各地の朝鮮商工会では、同胞商工人にも制度の存在を知ってもらい、活用してもらおうと、積極的なサポート体制を整えている。
従業員の雇用に応じて助成 雇用助成金は、景気の低迷に伴い、リストラや倒産による失業者が急増していることから、緊急雇用対策の一環として実施されたものである。 創業や異業種進出に際し、新たに雇った従業員の人数に応じて、賃金の2分の1(10月1日からは3分の1)を1年間、国が事業主に助成するというもので、人数の上限は6人。金額は従業員の年収から割り出され、半期(6ヵ月)に1度、支給される。サービス業、金融業、飲食業など、始める業種に制限はない。 例えば、推定年収300万円の従業員を、上限いっぱいの6人、雇った場合、受け取れる助成金は「300万円×6人×2分の1」で年間900万円となる。ただし、これは9月末までの臨時措置に基づくもので、10月1日からは「300万円×6人×3分の1」で年間600万円という計算になる。 雇用助成金を扱う労働省の外郭団体「雇用・能力開発機構」によると、昨年1月の実施から今年7月末までに、申請・認定件数とも順調な伸びを見せており、うち「6〜7割程度が新規創業者」と見ている。 数字の伸びが顕著なのは東京都で、昨年前半までは月に100〜200件程度だった申請件数が、後半から伸び始め、今年6月には560件と過去最高を記録。認定件数も1〜7月で累計1900件を超えた。飲食などのサービス業や情報関連産業が大半を占める。 大きな利点は、雇う従業員に、年齢制限や職業安定所(ハローワーク)からの紹介などの条件がないこと。また、融資制度とは異なり、当然、受け取った助成金を返済する必要はない。 同機構では「当たり前のことだが、資金調達に悩む中小企業にとって返済の有無は大きな問題。雇用助成金なら、創業や異業種進出の資金補助になるうえ返済を危ぐせずに済む。件数が伸びている要因も、こうした利用のしやすさにあるのでは」と分析する。 ただし、利点の裏にはハードルもある。 まず、助成を受ける企業が雇用(失業)保険に加入していることが大前提。雇用保険に加入している企業に対する助成制度だからである。助成を受けられる条件と必要な手続き細かく設定されており、認定まで一定の時間がかかる。 新たな事業の準備を始めた時点(例えば、会社の設立日)から6ヵ月以内に、都道府県に「雇用管理改善計画書」を提出し、知事から認定を受けなければならないし、事業を興すにあたっては、設備投資などで三百万円以上の支出をしたことの証明が必要になる。 また、同居する家族は、助成対象となる従業員からは除外される。つまり、家族経営の場合、家族は従業員とは見なされず、助成は受けられないので注意が必要だ。
商工会でも積極サポート 神奈川県商工会では今年4月、県知事から「労働保険事務組合」の認可を取得した。労働保険事務組合とは、労働省の委託を受け、中小企業の労働保険の申告・納付などの手続きを行う認可組合。労働保険や雇用保険の保険料徴収、書類作成代行などを手掛ける。 文賢二・商工部副部長によると、経営サポート・融資あっせんというだけでなく、別の形で商工人に対する便宜を図れないものかと考え、昨年7月に、高齢者助成金など国の助成に関する知識を学んだのをきっかけに、本格的に取り組み始めた。年末には、雇用助成金に関する業務が活発な近畿3府県も見て回った。 近畿では、大阪府商工会と兵庫県商工会が、やはり独自に組合を設けて専門業務を行っており、京都府商工会でも社会保険労務士の資格を持った職員が対応している。3府県の商工会では、2年弱で平均9〜10件の申請があったという。 神奈川県商工会で雇用助成金の申請業務を扱ったのは、これまでに5件。建設業やサービス業などがその内訳だ。だが、商工人の関心は高まっているという。「労働大臣の認可をもらった団体というのが、絶好の『お墨付き』になったようで、商工人からの信頼も高まった。また、申請時の手数料や国からの報償金を、同胞に還元できる。商工会で組合に認定される大きな意義はここにあると思います」(文副部長)。 京都府在住のある同胞商工人は、喫茶店を新たに経営したいと考え、地元の商工会に相談。雇用助成金の存在を知り、商工会を通じて申請を行った。助成金は運転資金などに活用した。「商工会の適切なアドバイスもあり、助成を受けられ、とても役に立った。ほかの制度も知りたい」などと感想を寄せている。 文副部長は、同胞商工人が雇用助成金の制度を利用する際のポイントとして、「細かな条件はあるが、何よりも、分からないことがあったら地元の商工会に相談してほしい。全力でバックアップします」と指摘する。 (柳成根記者) |