sydneyの目

総立ちの祝福、東京で起こりえたか


 シドニーで今世紀最後のオリンピックが開幕した。今回の五輪の目玉は、何と言っても統一旗を掲げて行進する南北朝鮮選手団の誇らしい姿だった。もう1つは最終聖火走者、先住民族アボリジニのキャシー・フリーマン選手の勇姿。さらに式場で聖火を引き継いだのもみな女性だった。まさしく「21世紀に向けた『民族和解と女性解放』の明確な発信となった」(毎日新聞)のである。

 南北の同時行進を取り上げた各紙の記事もおおむね好意的ではあった。タカ派的な言動で知られる漫画家の弘兼憲史氏の報告に、日本人らしい驚きぶりが集約されていたように思う。「特筆すべきは各国の入場のシーンだ。『マッチングトゥギャザー』とアナウンスされると全体がスタンディングオベーションの大歓声で迎えた。朝鮮半島の南北問題が、このオーストラリアでこれほど関心を持たれているとは全く思っていなかった。この光景を目の当たりにした時、思わず鳥肌が立ってしまった」(朝日新聞16日付)

 弘兼氏の感激は、南北同時進行よりも、総立ちで祝福する開会式の観衆に向けられたもの。分断55年。朝鮮民族の受難の歴史を、世界の人たちはちゃんと分かってくれていた。あの総立ちの熱い拍手には、同じような歴史を持つ世界の人々の共感と励ましがこもっていると思った。日本人には理解できないことかも知れない。

 戦争の世紀と言われた20世紀。約3000万の死者、約4000万の負傷者という史上空前の犠牲者を出した第2次世界大戦。人類史上最大の犯罪を犯したのは、日独伊であった。「本来なら、朝鮮半島ではなく、日本列島こそが、ドイツと同じ運命を甘受せねばならぬ立場にあったと考えるのが自然であろう。実際、日本以外の国の多くの人々が、そう考えている」(エッセイスト米原万里氏)。この指摘に待つまでもなく、日本には朝鮮半島の植民地支配や分断に対する厳しい自己責任や歴史認識は根づいていない。

 この夏実現した離散家族の再会についても、メデイアの反応は他人事のように「かわいそう」の次元にとどまっていた。その薄っぺらでノー天気な感性では、肉親が引き裂かれた隣人の心の痛み、長年続けられてきた民族和解への血のにじむような努力、それがなされた時の弾けるような喜びなど、到底理解できないだろう。

 シドニーでの感極まりない光景は、果たして東京・国立競技場で起こり得たであろうか。(鮮)

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