ことわざ辞典

升の上に升を載せる


 「升(ます)の上に升を載せる」 升で量り、その上に升を載せる意で、持っている以上にほしがる欲張りをいう。

 昔、ソウルに住むある両班の家に、ある日、1人の村令監(チョンリョンガ)が訪れてきて、丁寧に挨拶をした後、来意を告げた。「お宅のご子息はたいへん立派で、もうお嫁を迎える年頃に見えますが、申し分のない花嫁が1人います。私が仲人したいと思って伺った次第です」。

 そして彼は、「家を見れば不思議な世界のように面白く飾りたて、坐しながらにして星を見ることができます。また、日光のさしこみもよく、庭園はたいへん広く、樹木が茂ってその下を渓流(けいりゅう)が流れ、実に形容しがたい素晴らしい立派な家です。そして朝夕の食べ物は豪華でございます」と、いうのであった。

 両班は驚いた様子で「それは誠に奇妙ですね! 私の家はとてもそれに及びますまい。そんな富者の娘が今まで残っているとは、たぶん娘になにかの欠点でもあるのではありませんか?」といって、首をかしげた。

 すると、村令監は「心配する必要はありません ですが、ただ『遠いのが問題』で…」と、言葉尻を濁した。

 欲深い両班は、その具体的な話を聞かず、さっさと結納や婚礼の日どりなどを決めてしまった。

 そして、両班は息子と村令監と共に娘が住む江原道の山奥へと向かった。ある谷あいの倒れかけたあばら家の1軒にやっとたどりついた両班と息子は驚き、開いた口が塞がらなかった。

 また、婚礼の宴席は栗飯と味噌汁と、山から採った野菜のみであった。両班は瞬間、村令監に「あなたは、家が非常に面白くできていて、星も見ることができるといったではないか。この嘘つきめ!」と、怒鳴った。

 すると、村令監は「家の屋根がこわれて、そのすきまから昼は太陽の光線が明るくさしこむし、夜は星も見えるではありませんか」と、やんわりときりかえした。

 両班は気持ちを落ち着かせ、「花嫁さえよければ怒りも解けようか」と最後の望みをかけた。両班が注意深く花嫁を見ると、驚いたことに、娘は盲人(朝鮮では盲目を目が遠いという)であった。村令監にまんまとだまされた両班は、自分の欲望と軽率を深く悔い、唇をかみしめた、という。

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