書評
「南のひと北のひと」
李浩哲著
離散家族の痛みを切々と描写
本書は、作者と民族の運命を変えた朝鮮戦争のある時期の空間を通して、分断に苦しむ血肉の様々な思いをディテールに描いた歴史小説である。イデオロギーを介したステレオタイプ的な人間描写は一切なく、客観的で冷静な創作方法で統一への希求を結晶化させた南の現代文学の代表作だ。
作者は咸鏡南道の元山市で生まれた。高校3年の18歳の時に朝鮮人民軍に編入、「国連軍」下の「韓国」軍の捕虜となって釈放後に越南した作者は、その切実な体験をもとに、戦争という極限状況下で出会った北と南の人々とのイデオロギーでは割り切れない人間本来の姿を活写している。 物語は朝鮮戦争最中の南北が舞台。主人公は1950年7月、人民軍に動員されて38度線を越えて東海岸を南下していく。同年10月に「国連軍」下の「韓国軍」の捕虜となり、やがて釈放される。この約3ヵ月間に起こった出来事、とくに様々な人間像を描写している。 18歳の目で、当時の状況をつぶさに見据えた本書にこんなくだりがある。 「人間とはすべからくこんなものかもしれない。風聞とか、遠く離れているときには威風堂々として、それらしく見えても、いざ膝を交えてみれば、人品次第で一瞬に覆ることもある。あえて言うならば、この世に傑出した人間などさほどいないということだ。すでにわれわれは、それぞれの人品に相応しい、それ以上でも以下でもない人間関係に慣らされてきた」 本書で一貫しているのは、まさにこの人間観である。 人民軍に動員された人々と彼らを監視する「韓国軍」、故郷の村を中心とした北の土地改革や民衆の姿、そして緊迫した絶体絶命の状況を細目に形象化しつつ、分断の悲劇と家族離散の痛みを切々と訴えている。 98年8月に訪北した後、先の南北離散家族の訪問団の同行員として平壌を訪れ、50年ぶりに実妹らと劇的な対面を果たした彼は、マスコミのインタビューで「人間的な交流を重視しなければならない」と語った。 「脱郷」で文壇デビューし、家族離散の痛みを生涯のテーマとする彼の最後の作品が「帰郷」となることを願って止まない。(舜) 新潮社、1900円+税 |