「あんにょんキムチ」

「日本人」を鎧って生きた祖父


 キムチが嫌いな松江哲明は、日本に帰化したコリアン3世。8年前に亡くなった1世の祖父が、臨終の際に残した「哲明バカヤロー」の言葉に気を病み、知られざる祖父の生涯と自身のルーツを探った。

 日本と南の家族、親戚へのインタビュー構成によるドキュメンタリー映画。

 哲明の祖父・劉忠植は14歳で渡日、「帽子屋」を営み、徹底して日本人「松江勇吉」としての人生を歩む。着実に地歩を築くことによって、人望もあつく町内の顔役となる。和服を好んで着、日本人の選挙応援にも駆け付ける。

 しかし、「勇吉」には「帰化」が認められなかった。言語上の問題から。

 その一方で、「勇吉」は、気のおけない同胞と会う時は一言も日本語を話さず、4人の娘たちには決して日本人との結婚を許さなかった。

 毎日の食卓のキムチを絶やした事はなく、正月にはチェサを欠かさなかった。クンチョルの習慣とともに、今も「松江家」の伝統として残っている。

 そんな熱いコリアンの血を持つ祖父が、自分の墓の記名をあくまで「松江勇吉」にこだわった。それが、かつて創氏改名を強要された劉氏一族の共通の姓であることを知る哲明。

 こうして浮かび上がってくるのは、劉忠植が「松江勇吉」を鎧って生き通したという事実である。それは日本の植民地という困難な時代に、家族を守らざるを得なかった術かとも思う。

 祖国解放から55年。3、4世が主流となった在日同胞社会は今、大きな環境の変化の中にある。が、依然、朝鮮人を人間たらしめない重圧はある。見えにくくなっている分だけ、それを感じ取る新世代の感覚は鋭い。

 多様な生を生き、様々な立場の彼らなりの立ち向かい方に、希望をつなぐ。

 松江哲明監督。52分。日本映画。(鈴)

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