春・夏・秋・冬 |
「際物」という言葉がある。季節の間際に売る品物という意味だ。出版界では何か大きな出来事が起きた時に、緊急に出版される本の類を指す。売ることに重きが置かれるので、質は問われない
▼朝鮮問題ではとくに濫造され、この2、3年は自然災害による食糧危機にテーマを絞り、「北朝鮮亡命者の手記」とか「知られざる北朝鮮の…」など、書きたい放題言いたい放題だった ▼ところが最近、朝鮮問題の「際物」出版にちょっとした異変が起きている。ある大手出版社の編集者いわく、「出せば売れることは分かっているが、書き手がいない」のだそうだ ▼そういえば南北トップ会談、共同宣言発表という劇的な情勢の推移にもかかわらず、「際物」はほとんど出版されていない。昨年、「朝鮮総聯に改革の指示」とあたかも直接、聞いてきたかのような「作品」を発表した大手紙の元論説委員の物が目に付くくらいだ。それも、現在の朝鮮半島の根本的な変化の分析というには、距離がある ▼これまでは、何か出来事が起きると安企部(今の国家情報院)が懇切丁寧な分析資料やデータを提供、それに少し手を加えれば「特ダネ」が出来たが、今は南北両当局がすべてを公表してしまう。安企部の資料は効力を失ってしまった。だから、現在の朝鮮半島情勢に言及するには、これまで南北を見続けてきた目が問われる ▼プロボクシングの世界王座に輝いた洪昌守は、「われらの願い」の斉唱に涙が出そうになったという。その涙の意味がわからなければ、朝鮮問題は語れないということだ。(彦) |