同胞介護の現場から(下)

落とし穴
「保険料滞納」に認識不足

3割負担のペナルティー業者も危険強調


地域同胞への積極アピール必要

 介護保険制度の恩恵は、ただで受けられるものではない。サービスの利用にかかる費用は、利用者である要介護者が1割を負担、残りは税金と保険料でまかなわれることになる。日本人も同胞も同じである。

1割負担はクリア?

 同胞介護という見地から、これまで問題視されてきたのは、主に1割負担であった1世同胞の中には、無年金状態にあるため経済的に困難な人が少なくない。長く社会保険制度から排除されてきた同胞の歴史的背景を踏まえ、月の介護保険制度導入に際しては、全国各地の総聯本部・支部で「日本人と同様の、差別なき対応」を行政側に求める動きが相次いだ。

 しかしながら、現場の話を聞くと、業者と要介護者の双方から「1割負担はさほどの問題ではない」という回答が意外と多く上がった。同胞要介護者の多くが生活保護を受けており、1割負担が公費でまかなわれたり、家族が負担するケースがほとんどだからだ。

 京都市伏見区の同胞業者「エルファ」では、68人の要介護者を担当しているが、そのうち8割以上が無年金者だという。68人中、同胞は8人で、6人が無年金者。だが、その6人はみな生活保護を受けており、残る二人も家族が面倒を見ているため、苦情はないという。

 「無年金問題が根本的に解決されたわけではないので、一概に肯定はできない」(エルファ所長の鄭禧淳さん)ながら、1割負担の問題は意外としっかりクリアされていたというのが、現場の率直な印象だ。

不十分な行政の対応

 「在日同胞が介護サービスを利用するうえでの金銭的ネックは、何も(利用料金の)1割負担の問題だけではないんですよ」。神戸市長田区の指定居宅介護事業所「ポラム」の代表、李ヂョンシンさんはこう話す。むしろ懸念は、保険料負担を同胞がきちんとできるのかという問題のほうにあった。

 保険料負担は現在、40歳以上65歳未満の人に課せられている。強制加入・掛け捨て型で、月3千円として年間3万6000円。決して安いものではない。

 李さんの話によると、同胞には、自ら役所に出向いて保険料を支払う普通徴収者(自己納付者)の割合が多いという。仮に保険料を「うっかり払い忘れ」た場合、2年以上の滞納だと2年分しか後払いが利かず、残る期間は自己負担が3割に跳ね上がるペナルティーを課せられる。5年間滞納して5年後に要介護者になった場合、最低3年間は3割負担となる(別表)。

 ペナルティーの存在は、「同胞にはほとんど知られていない」(李さん)だけに、業者側からだけでなく、行政側からもしっかりとした説明が必要となる。それでは行政側の対応はというと、同胞への差別的処遇は依然、残ったままだ。

 神戸市では昨年7月、介護保険制度に関する意識調査が行われた。ところが、同胞にアンケート用紙やパンフレットは一切、届かなかった。意図的に調査対象から外されていたのだ。

 「名簿がない」というのが理由だそうだが、調べればよいだけのこと。だが、同胞の中には、自分が保険料を支払う対象と知らないまま、保険料が天引きされるケースすらあるという。「制度の周知徹底という意味で、同胞は行政から取り残されるのではないか、という懸念は消えていない」(李さん)のである。

 10月からは65歳以上の人も支払対象になるだけに、行政側に適切な対応を求めるのはもちろん、同胞の側からも、地域の同胞生活相談綜合センターなどを通じて、保険料負担の必要性を積極的に説く必要があろう。

 本来、所有しておくべき基礎知識が、残念ながら肝心の同胞の側には正確に伝わっておらず、そのために本来はしなくてもよい損をしているというのが、取材を続けての印象だ。

 始まったばかりの制度だけに、今後は行政にも、また地域の同胞社会に根差す同胞組織の側にも、よりしっかりとしたサポートが求められる。(柳成根記者)

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