春・夏・秋・冬 |
今の若い人には無縁の書かもしれないが、クラウゼヴィッツの古典的名著「戦争論」に「戦勝の要諦は制高点占領にあり」という名文句がある。高地を制圧すれば勝てる、という意味だ
▼人間の心理として、高い所から見下ろされるとプレッシャーを感じるものだ。その心理的圧迫が士気に与える影響、そして高所から低地への攻撃が容易なのに反して、低地からのそれは非常に困難である、という安全性を加味した言葉だ。約200年前の書だが、本質をついたテーゼとして、各国の戦略の基礎となってきた ▼米国は第2次世界大戦、日本との戦いの中でこのテーゼを足掛かりに、空域を支配する戦略、つまり制空権の確保が戦争の行く末を決定すると、大戦前から航空機の生産、パイロット育成、飛行場建設・確保に全力を挙げた。太平洋が主戦場になっただけに、とくに飛行場確保の優先度は高く、飛び石的に次々に島を占領し、整備していった ▼飛び石をつなぐと線になる。地図上で見れば点に過ぎないが、実際の戦闘では点をつないだ線内の上空は、米軍の制空権となった。一方、日本はといえば、不可能な広大な地域の大小様々の島の支配維持に躍起となるだけだった。そして結果は明らかな通りである ▼本質は何か、を見抜く力、能力はいつの時代にも、どのような局面においても問われる。その状況が複雑かつ混沌としていればいるほど、なおさらである ▼しかし、米国はその力だけを背景に、戦後の国際社会のあちらこちらに介入し、手痛いしっぺ返しを受けた。「おごれる者久しからず」。 (彦) |