女のCINEMA

ボーイズ・ドント・クライ


 心と体の性の有り様が異なる性同一性障害の女性が、「男」として生きた短い青春の軌跡。1993年、米ネブラスカ州フォールズ・シティで実際に起きた衝撃的殺人事件をもとにしたもの。

過酷な青春の奇跡

 女の体に強い違和感を持っているティーナ・ブランドンは、将来の方向も定まらぬまま、自ら求める心の性「男」のブランドン・ティーナとして生きる選択をする。

 髪を少年のようにカットし、小粋にカウボーイ・ハットをかぶり、くわえタバコ、股間につめ物をした男装で、生まれた町リンカーンを後にしフォールズ・シティへ。

 きゃしゃで美青年のブランドンは、たちまち町の人々を魅了した。人をそらさぬ明るい眼差し、優しい語り口、大胆な冒険心。やんちゃな男っぽさはカリスマ性すら感じさせた。飲んだくれて暴力的で知性に欠け、とかく女と見れば「所有」したがる土地の男たちと一線を画すものがあった。

 ブランドンは恋をした。普通の男女のように、夢中で愛しあった。将来の方向に希望が持てそうだった。

 が、ブランドンの過去の過ちから素性が知れた。貧困と閉そく状況、固定観念にとらわれている町の人々の驚がく、ろうばい、激しい憎悪が、狂気となってブランドンを襲う。容赦ない陵辱、そして無残な死。

 自分に忠実に生きようとする余り、禁断の男社会の領域を侵してしまったブランドン。さびた田舎町を支配する保守的社会秩序の根幹に触れてしまったのである。

 徹底して異端を排除することによって開拓を押し進めてきた米国歴史の残忍性が垣間見え、差異を認めぬ現代社会の非寛容さが問われている。

 男になりたかったティーナ・ブランドン、21歳。駆け抜けられなかった青春のギャロップ。キンバリー・ピアース監督。119分。米国映画。(鈴)

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