サムルノリの金徳洙氏に聞く

民族 覚ますチャンダン

今こそハナ(ひとつ)の文化モデルを


夢は南北合同の芸術グループ
世界各地で公演したい 

 「統一の日まで、南北合同の芸術団で世界各地で公演したい」。  
  朝鮮半島古来の打楽器―チャンゴ、ケンガリ、プク、チンをアンサンブルとしてまとめた「サムルノリ」を創案し、広く普及してきた南の金徳洙氏が、7月中旬、10年ぶりに日本で公演した。「汎民族統一音楽会」(90年)、「尹伊桑統一音楽会」(98年)など、平壌もたびたび訪れている金氏に話を聞いた。(張慧純記者)

北の人とサムル叩く

 ―東京の公演(14日)で南北首脳会談に言及し、「わが国が平和に統一できるよう、協力して欲しい」と話していた。

 私が民族の精神を象徴するサムル―チャンゴ、ケンガリ、プク、チンに携わった人間だからこそ、(南北首脳会談の実現に)こんなにも感動したと思う。

 90年に初めて平壌に行った時、平壌の人がケンガリを叩くと私がチャンゴを叩き、私がケンガリを叩くと、北の人はチャンゴを叩いた。サムルを叩きながら、2・8文化会館(当時)から金日成競技場まで行進したが、北の人々も合流し一つになっていた。

 サムルは古くから、庶民の生活に根付いてきたものだ。分断されたあとも、サムルそのものは変わっていない。チャンダン(朝鮮のリズム)もそのままだ。

 人間の根っこから生まれた音楽ほど、人間を正直にするものはない。同じ伝統、文化、感性を持つ人々が1つになれない訳はないことを実感した。北の芸術家とは音楽的な話をたくさんした。ウリカラッの構造、南北の何がどう違うのか、どうすればもっと楽に交流できるのかを…。南北共同宣言が発表されたので、今後は楽に交流できるようになるだろう。

出会いと理解と愛と

 ―南北の首脳は共同宣言で、文化交流を通じて相互の信頼を築こうと合意した。

 今こそ文化の面で、南北が1つになったモデルを提示する時だ。

 南北で一つの芸術団体を作り、世界各地で公演するのが夢だ。20、30人位のコンパクトなカンパニーでもいい。例えばサミットで南北の指導者が会う、といった時にその場所で公演をしたい。公演を観た人々が芸術、文化を通じて「統一」を語る、それが時代を変える「声」にもなる。同じような試みがあっちこっちで行われれば、その「声」はどんどん大きくなり、統一の流れを加速させる。

 われわれは統一を目指すことに合意した。しかし、統一を他国が妨害することもあり得る。だから、統一の日まで公演は続ける。

 人と人が出会い、理解し合い、愛し合い、一緒に暮らす、そのための文化的な土壌を作っていくことが、統一を近付けることになる。

 ―南北の文化交流についてどう考えているのか。

 現実的に可能な交流を進めるべきだ。無理をしてはだめ。お互いが直面する問題を認め合い、理解したうえで、できることを探すべきだ。そのためにも、お互いが率直に話し合うことが大事だと思う。

 何はともあれ、民族的なものをどう発展させるか、これが一番大事なことだ。

 解放後、南は個人中心、北は集団中心に民族文化を発展させた。思うに、民族的なものは北がはるかに強く、現代的に発展させた。南は伝統的なものを、そのまま保存してきた。

 6月にソウルで初公演を行った平壌サーカス団を見た時もそう思った。私は「男寺党」出身だが、芸人集団には昔から曲芸的なものが多かった。

 南北どちらが良い悪いという評価の問題ではない。南北の文化が出会えば、今まで創れなかったものが創れる。うまく1つになれば、世界一のものが生まれるかも知れない。

朝鮮学校にも行きたい

 ―なぜ民族古来のサムルにこだわったのか。

 70年代、サムルも経済開発の影で、庶民の生活からどんどん無くなっていった。伝統的で民族的なものが無くなるということは、民族の精神、霊魂が消えていくことだったので、強い危機感を覚えた。伝統楽器を現代的に発展させた、サムルノリという新しいのぼりを作ったのはこのためだ。

 ウリカラッの中には、民族の哲学、呼吸、精神が込められている。今回の公演には多くの在日同胞が足を運んでくれたが、ハングルが話せなくともチャンダンを聞けば血が騒ぐのは、チャンダンに民族の精神と気運が込もっているからだ。今こそ民族的なものを呼び起こす時だ。私はチャンダンを叩き、同胞の体に宿る民族的なものを呼び起こしたい。

 日本に知り合いは多いが、在日同胞は苦労をして学校を作り、民族的なものを大切にしてきた。朝鮮学校でサムルノリが活発に行われていると聞くが、本当に嬉しい。民族の打楽器に携わるからこそ、海外でも多くの同胞に会えるのだ。

 在日同胞には、今以上に民族文化を大切にして、統一に寄与して欲しい。文化を発展させるためだったら、朝鮮学校にもサムルノリを教えに行きたい。

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金徳洙(キム・ドクス)
 1952年生まれ。5歳の時、千数百年の伝統を持つ旅芸人集団の「男寺党(ナムサダン)」に加わる。59年、専門芸人が競い合う「全国農楽競演大会」で最高賞(大統領個人賞)を受賞。チャンゴの天才少年として名を馳せた。

 朝鮮半島古来から伝わる伝統打楽器、サムル(四物―チャンゴ、ケンガリ、プク、チン)を現代的に発展させるため、南に残るカラッ(朝鮮のリズム)約120種を調べ上げ、整理、記録。

 78年、有志たちと伝統リズムを新たに構築した「サムルノリ」の演奏を始める。サムルノリとはサムル(四物)でノリ(遊戯、演技、遊撃する=金徳洙氏)するという意。

 サムルノリ創団以来、世界50以上の国で約3600回の公演を行った。汎民族統一音楽会(90年)に参加するなど、朝鮮も2度訪問し、南北の文化交流にも携わってきた。芸術綜合学校教授(演戯科科長)として後世の育成にも努めている。

 

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