サムルノリの金徳洙氏に聞く
民族 覚ますチャンダン
今こそハナ(ひとつ)の文化モデルを
夢は南北合同の芸術グループ 世界各地で公演したい 「統一の日まで、南北合同の芸術団で世界各地で公演したい」。 北の人とサムル叩く 私が民族の精神を象徴するサムル―チャンゴ、ケンガリ、プク、チンに携わった人間だからこそ、(南北首脳会談の実現に)こんなにも感動したと思う。 90年に初めて平壌に行った時、平壌の人がケンガリを叩くと私がチャンゴを叩き、私がケンガリを叩くと、北の人はチャンゴを叩いた。サムルを叩きながら、2・8文化会館(当時)から金日成競技場まで行進したが、北の人々も合流し一つになっていた。 サムルは古くから、庶民の生活に根付いてきたものだ。分断されたあとも、サムルそのものは変わっていない。チャンダン(朝鮮のリズム)もそのままだ。 人間の根っこから生まれた音楽ほど、人間を正直にするものはない。同じ伝統、文化、感性を持つ人々が1つになれない訳はないことを実感した。北の芸術家とは音楽的な話をたくさんした。ウリカラッの構造、南北の何がどう違うのか、どうすればもっと楽に交流できるのかを…。南北共同宣言が発表されたので、今後は楽に交流できるようになるだろう。 出会いと理解と愛と 今こそ文化の面で、南北が1つになったモデルを提示する時だ。 南北で一つの芸術団体を作り、世界各地で公演するのが夢だ。20、30人位のコンパクトなカンパニーでもいい。例えばサミットで南北の指導者が会う、といった時にその場所で公演をしたい。公演を観た人々が芸術、文化を通じて「統一」を語る、それが時代を変える「声」にもなる。同じような試みがあっちこっちで行われれば、その「声」はどんどん大きくなり、統一の流れを加速させる。 われわれは統一を目指すことに合意した。しかし、統一を他国が妨害することもあり得る。だから、統一の日まで公演は続ける。 人と人が出会い、理解し合い、愛し合い、一緒に暮らす、そのための文化的な土壌を作っていくことが、統一を近付けることになる。 現実的に可能な交流を進めるべきだ。無理をしてはだめ。お互いが直面する問題を認め合い、理解したうえで、できることを探すべきだ。そのためにも、お互いが率直に話し合うことが大事だと思う。 何はともあれ、民族的なものをどう発展させるか、これが一番大事なことだ。 解放後、南は個人中心、北は集団中心に民族文化を発展させた。思うに、民族的なものは北がはるかに強く、現代的に発展させた。南は伝統的なものを、そのまま保存してきた。 6月にソウルで初公演を行った平壌サーカス団を見た時もそう思った。私は「男寺党」出身だが、芸人集団には昔から曲芸的なものが多かった。 南北どちらが良い悪いという評価の問題ではない。南北の文化が出会えば、今まで創れなかったものが創れる。うまく1つになれば、世界一のものが生まれるかも知れない。 ―なぜ民族古来のサムルにこだわったのか。 70年代、サムルも経済開発の影で、庶民の生活からどんどん無くなっていった。伝統的で民族的なものが無くなるということは、民族の精神、霊魂が消えていくことだったので、強い危機感を覚えた。伝統楽器を現代的に発展させた、サムルノリという新しいのぼりを作ったのはこのためだ。 ウリカラッの中には、民族の哲学、呼吸、精神が込められている。今回の公演には多くの在日同胞が足を運んでくれたが、ハングルが話せなくともチャンダンを聞けば血が騒ぐのは、チャンダンに民族の精神と気運が込もっているからだ。今こそ民族的なものを呼び起こす時だ。私はチャンダンを叩き、同胞の体に宿る民族的なものを呼び起こしたい。 日本に知り合いは多いが、在日同胞は苦労をして学校を作り、民族的なものを大切にしてきた。朝鮮学校でサムルノリが活発に行われていると聞くが、本当に嬉しい。民族の打楽器に携わるからこそ、海外でも多くの同胞に会えるのだ。 在日同胞には、今以上に民族文化を大切にして、統一に寄与して欲しい。文化を発展させるためだったら、朝鮮学校にもサムルノリを教えに行きたい。 ◇ ◇ 金徳洙(キム・ドクス) 朝鮮半島古来から伝わる伝統打楽器、サムル(四物―チャンゴ、ケンガリ、プク、チン)を現代的に発展させるため、南に残るカラッ(朝鮮のリズム)約120種を調べ上げ、整理、記録。 78年、有志たちと伝統リズムを新たに構築した「サムルノリ」の演奏を始める。サムルノリとはサムル(四物)でノリ(遊戯、演技、遊撃する=金徳洙氏)するという意。 サムルノリ創団以来、世界50以上の国で約3600回の公演を行った。汎民族統一音楽会(90年)に参加するなど、朝鮮も2度訪問し、南北の文化交流にも携わってきた。芸術綜合学校教授(演戯科科長)として後世の育成にも努めている。 |