不二越訴訟、和解成立

国際世論に押された「解決金」

強制連行、謝罪は否定/司法の限界も露呈


 日本の植民地支配時に強制労働させられた南朝鮮の元女子挺身(ていしん)隊員らが、雇用先の工作機械メーカー「不二越」(富山市)に、未払賃金や損害賠償など計約2000万円の支払いと日本と南朝鮮両国の新聞への謝罪広告掲載を求めた訴訟で、原告、被告双方が11日、最高裁で和解した。

  不二越側は強制連行の事実や謝罪は否定したものの、原告3人を含め、米国で訴訟準備中の計8人および「太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会」に総額三千数百万円の「解決金」を支払うことで合意した。また、戦時中の原告らの労働に「感謝の意」を表する「第2次大戦下勤労之碑」を建てる。

  日本全国で約60件起こされた戦後補償をめぐる訴訟のうち、最高裁で和解が成立するのは初めてのことだ。

「植民地合法論」を踏襲

 不二越訴訟の原告は南朝鮮に住む李鐘淑さん(68)、崔福年さん(69)、高徳煥さん(77)の3人。

  崔さんらは、「女学校に通えてお金ももらえる」などとだまされ、43年から45年にかけて日本で強制労働を強いられたが、賃金は1度も支払われなかった。このことから92年9月、「不二越」を相手に、強制連行に対する謝罪、未払賃金と損害賠償計2000万円の支払いを求め富山地裁に提訴した。

 しかし、1審の富山地裁(96年7月)、2審の名古屋高裁金沢支部(98年12月)とも時効成立、除斥期間(不法行為から20年が経過すれば損害賠償請求権が消滅)を理由にいずれも原告の請求を棄却していた。

 植民地支配当時、朝鮮東海側の最大の軍需工場だった「不二越」は、1624人(同社社史)の朝鮮人を「募集」、「官斡旋」、「徴用」の名目で強制連行した。しかし、不二越側は、「謝罪はしない。強制連行、未払賃金の事実もない。強制連行は当時の国策に従っただけで法令に基づいたもの」として、強制連行の事実は最後まで否定した。

 「不二越」側の論理は、植民地支配が「合法的に行われたもの」とする日本政府の主張を踏襲したもので、企業の戦争責任を回避したものだ。ちなみに国連人権委員会などの国際機関は、強制連行、「従軍慰安婦」など日本の戦争犯罪には時効がないとの見解を明確にして、日本政府に対して国家による謝罪、賠償を求めている。

原告以外にも支給

 原告団団長の金景錫さん(74)は、和解の知らせに接し、「やましいところがなければ(企業が)金を出すことはない。勝利の和解で感無量」と喜びを述べた。

 提訴から約8年。当初から「解決すべきことは何もない」と原告の主張を否定し続けていた「不二越」が、企業側の責任や謝罪には触れずとも3000万円を越える「解決金」を支払い、和解に応じた背景には、日本の戦争責任を追及する国際的な流れがある。

 それは「解決金」の支給対象、3人の原告以外にも米国カリフォルニアで訴訟準備中の南朝鮮在住同胞五人と「太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会」を加えたことに現れている。

 昨年夏から米国では、旧日本軍による強制労働被害者を救済するための法律がカリフォルニア州やニューヨーク州で制定されている。米国で南朝鮮、中国の強制労働被害者や元米兵捕虜が鹿島、三菱、三
井、住友など大手日本企業を対象に起こした損害賠償訴訟は、30件を越えた。

 「不二越」が今年の3月、一転して最高裁に和解の協議を申し入れ、和解の対象を米国で訴訟準備中の被害者にまで広げたのは、こうした国際社会の流れを無視できなくなったからだ。とくに商品の7割を米国に輸出している「不二越」は、米国で提訴された場合の現実的な「被害」を冷静に判断したと言えよう。

 その一方で、最高裁が日本の戦争犯罪について明確な判断を示さなかったことは、国際社会に遅れをとる日本の司法の姿勢をまたもや浮き彫りにした。(張慧純記者)

TOP記事

 

会談の関連記事