私の会った人

佐藤忠男さん


 映画評論家といえばこの人。「いい映画があれば、世界中どこにでも飛んでいきます」。これまで見たのは100ヵ国近い国々の作品。日本のアジア映画のブームを底流で支える。

 この道50年。映画の魅力をこう語る。「どの国の映画にも、民族のプライドが表現されている。何を心のよりどころとし、誇りにして、大事にしているかが描かれている。映画館は世界に開かれた広場です」。

 以前、ソウルで聞いた話。北の市民生活をテレビで見た少年が「頭にツノがない。人間がいる」と叫んだという。「その気持ちはとてもよく分かる。私が10代の頃は戦争中で 鬼畜米英 ≠ニ聞かされていた。情報が少ないと誤った先入観を相手に抱いてしまう」。そんな偏見をふりはらうためにも、今、南北朝鮮あるいは日朝間で、映画交流を行う絶好の機会なのではと話す。「どの国の人も同じように暮らしている。人間のやることにはそう違いはない。それが丸ごと分かるのは、映画が一番」

 近年、他者の眼で日本を見つめ直すことの大切さを繰り返し書く。例えば日本映画の日本的特色とは何か。小津安二郎の描く家族の絆は朝鮮や中国、イタリアに顕著。 寅さん 映画の下町の人情は、タイやインドネシアやフィリピンの暮らしの中により息づいている、と。

 戦争中、志願して軍隊へ。数ヵ月後に敗戦。14歳で失業。深い挫折感に浸っている時に偶然見た娯楽映画に再生の灯を見出だす。以来ひたすらの映画人生。 (粉)

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