コラム それぞれの四季
「ピョンヤン発ソウル行き」
全 佳 姫
京畿道楊平郡龍門面。外国人登録証に記された私の本籍地=アボジのコヒャン(故郷)。
幼い頃から何度もそらんじてきたこの地名。1度も行ったことはないけれど、いつも心にとどめてきた。もう既に私の体の一部になっている。今、まさに私はその地に向かう列車に揺られている。 ピョンヤン発ソウル行き。新しく開通したばかりの直通列車は、たかぶる胸の鼓動の様にリズミカルな振動でひた走る。列車で38度線を越える時はどんな気分になるんだろう。南と北はやはり1つの地でつながっていたんだと、当たり前のことを再認識するのだろうか。 ソウルに着いたら何よりもまず、アボジのコヒャンへ行こう。ハラボジ、ハルモニの墓前にクンジョル(朝鮮式のおじぎ)をして、「孫です」と自己紹介を、「ひ孫です」と娘を紹介したい。そして、朝鮮西海の海の幸をめいっぱい頂こう。その頃にはアボジも若き日の思い出話を語り出すに違いない。いつも無口なアボジだが、コヒャンの風が、長かった分断の痛みをやわらげてくれるかも知れない。 ソウルに戻ったら、明洞で買い物。テレビで見た洞穴みたいなサウナにも入ってみたい。朝は南大門市場でかゆをすすり、夜はプルコギ三昧。慶尚道へ歴史探訪にも行きたい。済州道ではマリンスポーツを楽しんで…。喧騒にあきたら、ピョンヤンに戻って、旅装を解いて、静かな思索のひとときを。 ……今はまだ、夢のような夢の話。でも、着実に現実に近づきつつある夢の話。南北の首脳が笑顔で出会ったあの日から、私の夢は膨らむ一方である。 (事務員) |