取材ノート

「太白山脈」を地で行く同胞1世の人生


 先週、福島県内で2つの対照的な取材をした。

 1つは、南北首脳会談の開催、朝・日国交正常化交渉の再開を見越して、多様化する価値観のなかで21世紀を目前に、これから在日同胞は、民族と国籍をどのように守っていくべきかを考えるシンポジウム。

 もう1つは、日本の植民地時代を生き、その後の南北分断と、日本政府の差別政策のなかで自分の信条を貫き通してきた同胞1世の人生だ。

 南で大ベストセラーとなった趙廷來の大河小説「太白山脈」を地で行くその同胞の取材は、4時間以上にもおよんだ。

 植民地時代に夢多き青春時代を送り、外交官を目指したこと、南で起きた歴史的な事件に関わったこと、故郷にいる親、兄弟の死を日本で知らされ、「朝鮮の男は人前で泣かない」と雨のなか、滴とともに涙を流した時の心境。その同胞は今も夢を見ると、故郷の家の扉を開けた所で必ず目が覚めるという。だが、夢にまで見る故郷には、「統一後に行く」と心に決めた。同胞は、「全部話せば長編小説になる」と言いながら、記者を前にせきを切ったように話をした。

 こうした同胞1世にとって、南北首脳会談の歴史的なシーンは、どれほどの喜びをもって映ったことだろう。

 所変わってシンポジウムでは、日本で市民権をどのように取るべきか、国籍と民族をどう守るか、そうした議論が活発だった。柔軟さも必要だろう。

 だが、私たちの存在が証明している「在日同胞の歴史」、そこに立脚してこそ同胞の未来も語れるはずだ。過去と未来、古いものと新しいもの、一見対照的に思えるが、それは決して別のものではなく、確実につながっているのだ。 (金美嶺記者)

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